経済的理由で進学をあきらめないために
学資の不足を補う「奨学金」について考えよう
返還の必要がない「給付型」奨学金。「自力進学」実現には情報のキャッチが必要
いまの日本の奨学金制度について所見をお聞かせください。
現在、日本の奨学金は、返還する必要がある「貸与型」が主流となっています。例えば、日本学生支援機構の第一種奨学金(無利子)を私立大学・自宅通学という条件で定額返還にした場合、月額1万4,000円を、卒業後毎月欠かさず支払っていかなければなりません。これが高いか安いかは議論が分かれるでしょうが、現に返還できないでいる層が増えてきていることが社会問題化しています。もちろん、きちんと返還することができる人はいます。しかし、いまの日本では、一度離職して収入が途絶えてしまうと、どうしても返還が滞ってしまうというケースが増えているのです。
滞納に関しては、5%の延滞金がかかる仕組みとなっています。滞納してしまっている元奨学生にしてみれば、返還が困難な状況に加えて、さらに延滞金が積み上がってくるという悪循環により、泥沼にはまってしまいかねません。
日本学生支援機構では、無理なく返還できるように、「返還期限猶予制度」や「減額返還制度」、「所得連動返還方式」といった救済措置を設けています。ただし、いずれの制度も返還を一時的に猶予したり、一カ月当たりの返還額を減らしたりする制度であり、借りたお金を返さなければならないことには変わりはありません。これではどうにもならない。だからこそ、返還の必要がない「給付型」の奨学金がにわかに注目されるようになってきたのです。
返還の必要がない「給付型」に対する期待は大きいと言えます。
日本学生支援機構の給付型奨学金は平成29年度から始まり、大きな注目を集めました。教育費を一体誰がまかなうのかという問題は現代の日本社会が抱える喫緊の課題として認知されていますから、給付型は今後もかなり拡充されることが期待できます。
しかしながら、現時点では、貸与型よりも限られた範囲の少数者、もしくは小額支援にとどまっています。そのため、保護者や家庭に金銭的に頼ることが無理な学生に関しては、進学先の大学や専門学校などが運営している学校独自の制度やその他さまざまな機関・団体や自治体が実施している制度などをうまく組み合わせて、学費に充当するという考え方が必要になってきます。
授業料の減免については、スポーツ活動の実績や学業などの成績優秀者を対象とするものや厳しい経済的状況に置かれている方を対象とするもの、あるいはあらかじめ定められた難関資格の取得者や各種検定の合格者等、資格や経歴によるものなど、さまざまなタイプがあります。
しかし、こうした奨学金には、入学するまで自分が対象者となれるかどうか分からないものが少なくない反面、入学前にあらかじめ採否が分かり、自分が奨学金を受けられると分かってから入学を決めることができる制度も存在します。ですから、各学校の制度については、十分に調べる必要があるでしょう。
奨学金制度の内容が複雑で分かりにくいという指摘もあります。
日本の奨学金制度は選択肢を充実させるため、複雑化する傾向にあります。これは、何も日本に限ったことではなく、例えばアメリカもさまざまな選択肢を示し、その中から自身に合ったプランを選ぶという制度設計になっています。
一方、イギリスやオーストラリアなどの奨学金制度は比較的シンプルですが、これらの国々の大学はほとんどが国立や公立で、教育の在り方そのものが日本とは大きく異なるため、それほど参考にはならないでしょう。
高校生のみなさんにとって大切なのは、情報をしっかりとキャッチして理解することです。
私が過去に行った調査によると、支援を必要としているような方々ほど、十分な知識と情報を得る機会に恵まれず、授業料減免や無利子奨学金受給の資格要件充足者であるにも関わらず、活用できていないということが少なからずあることが分かっています。
情報を効率的に手にするための心構えをお聞かせください。
まずは、高校の進路指導の先生方に相談してみましょう。そして、日本学生支援機構に問い合わせをしたり、ウェブサイトでリサーチしたりするのも有効な手段です。
また、同機構では金融知識に精通したスカラシップ・アドバイザーの高校派遣も行っています。そうした専門スタッフによる説明会の場も、ぜひとも有効に活用していただきたいと思います。
新設の給付型も含め、多様な選択肢が揃いつつあります。あきらめずに、自分のキャリアデザインを描き出すための手段を模索していただけたら嬉しいですね。