実物大のものをつくることに魅力
幼い頃から、ものを作ることは好きだったのですが、実際に建築分野を志望したのは、高校1年の冬でした。文理選択がきっかけで、将来を真剣に考えるようになり、最終的に建築の分野に決めました。模型ではなく、実物大の大きなものをつくることに魅力を感じました。
日本一の建物づくりに携われて嬉しい でも、完成したらもっと嬉しいですね
1976年、大阪府生まれ。奈良県立畝傍高等学校出身。大阪市立大学工学部建築学科卒業。2000年、大林組に入社。さまざまな現場を経て、2009年1月より9現場目となる東京スカイツリー(事業主体:東武鉄道・東武タワースカイツリー)の建築担当主任に。構造体のメインとなる鉄骨の工事を担当。
634メートルという東京タワーを超えて日本一の高さを誇る東京スカイツリー。世界一高いタワーとして、ギネス世界記録™にも認定されました。今まで誰も挑戦したことのない高さに挑み、タワー建設現場の最前線で指揮を執った、大林組の吉川俊さん。建設の仕事、日本一かつ世界一のタワー建設に携わった気持ちなどを聞きました。
幼い頃から、ものを作ることは好きだったのですが、実際に建築分野を志望したのは、高校1年の冬でした。文理選択がきっかけで、将来を真剣に考えるようになり、最終的に建築の分野に決めました。模型ではなく、実物大の大きなものをつくることに魅力を感じました。
今は、いわゆる「現場監督」をしています。現在は、主任という立場で、設計図通りに建物をつくるため、施工方法や施工手順を決め、職人さんを指揮して、工事を管理することが主な仕事です。主任になると、上司の指示のもと、主体的に仕事を進めていくことが求められます。現場の最前線に立つので、非常に責任の重さを感じます。一方で自分のこれまで勉強してきたことや経験、技術をいかして仕事を進められることが、仕事の醍醐味の一つです。
東京スカイツリーの現場では、ゼロメートルから495メートルまで鉄骨を積み上げる工事を担当しました。この現場に配属されたときは、日本一のタワー建設に携わることができるという嬉しさがありました。しかし、本音を言うと、複雑な心境でした。というのも、これまで私が経験した高さは、150メートル級まで。300、400メートルというのは想像を超える高さで、図面を見ても、最初は自分が建てていくイメージがなかなかできませんでした。また、これほど規模の大きい現場は経験したことがなかったので、不安もありました。ただ、基本的な仕事の進め方は普段と変わらないので、グループで日々打合せを積み重ね、そこで問題点や解決策、仕事の進め方などを話し合って取り組んでいきました。
2010年3月29日には、ついに東京タワーの333メートルを超えて、日本一の高さになりました。事前に、建設の計画を立てていますので、何日に日本一の高さになるのかは想定できていました。その日の前の週末に東京タワーに上って、自分の建てている東京スカイツリーを眺め、「来週、この高さを超えるんだなと」という気分にひたりました(笑)。
建設現場は、一つのプロジェクトに対して、一つのチームで実施していきます。プロジェクトが終わると、それぞれ別の現場に移るので、同じメンバーで、違う建物を建てることはありません。一期一会のメンバーになるのですが、一つの仕事に対してはそのプロジェクトだけのメンバーでやることが、この仕事の好きなところですね。
建物が出来上がったときには、やはり感慨深いものがあります。工事が完了してお客様に引き渡すことを「竣工」というのですが、その瞬間は何ともいえないくらいの感動があります。私は運が良く、建設現場が更地の状態のときから引き渡しまでの期間、仕事を担当することが多かったので、お客様が喜んでくれる姿を見ることができました。「大林組に頼んでよかった」という言葉を聞けたときは最高の気分ですね。
自分の将来のために、高校では勉強も頑張ってほしいです。学ぶ姿勢というのは、社会に出てからも必要です。建設会社に入ると、1年目から「現場監督」となります。職人さんと協力し、円滑に仕事を進めるために、会社に入ってからも勉強しました。勉強は学校だけではありません。社会人になってからもずっと続くものなので、いまから勉強する姿勢を身につけておくのはいいことだと思います。
吉川さんの話では、「東京スカイツリーの現場は、未知の高さでの作業であったが、安全だった」と言います。そう言えるだけの、安全計画、安全管理を徹底していたからでしょう。 安全面を配慮する上で重要なのは「人を落とさない」「ものを落とさない」こと。安全帯の使用を促す声がけや、クレーンでモノをつるす時、工具やペン一つでも落下防止をつけることが徹底されていました。