「コンパクト・シティにおける学校配置と学校の『地域拠点性』(3)──『規模』問題をどうとらえるか」筆者・葉養正明

各学年の学級数、学級に在籍する児童生徒数などの「規模」に着目した議論は、
近代社会の学校システムを論ずる際延々と続いてきた。
前回(2026年6月4日掲載)取り上げた根本祐二教授(東洋大学)の
「コンパクト・シティの拠点設定について
~学校統廃合シミュレーションに基づく試算と地域経営への示唆」(2018年6月19日)も、
学校再編の提案は文科省の「学校規模・学校配置のてびき」による「規模」に準拠している。
では、学校システムにおける「規模」問題は原理的にはどう考えられたらよいのだろうか。
今回は、国立教育政策研究所紀要の論稿を手がかりに、
「規模」にかかわる実証研究の到達点を見ることにしよう。
なお、紙幅との関係があるので、「得られた知見」のみに言及する。

(1)「小学校複式学級による学力スコアへの影響」
(小林叔惠・今村聡子著、国研紀要 第149集 令和2年3月)
文科省総合政策局職員による論文であるが、
平成20年度から平成30年度までの全国小学校における複式学級に着目している。
全国データを基礎に、平成30年度については、小学校数19892校、児童数6427867人、
学級数273647が対象とされ、複式学級数は4527、比率は1.7%となっている。
「得られた知見」:
「複式学級の学力スコアへの明らかにネガティブな影響は見られない。
すなわち、異学年で構成する学級で教育を受けることが、現状、
ただちに学力への大きな負の影響を及ぼしているとは考えられない。
この傾向は諸外国の多くの研究によっても検証されており、非常に頑健な知見であると言える。
・・・この要因としては、複式学級のある小規模校を対象とした加配措置など
重点的なリソース配分や、複式学級における指導の充実に向けた全国へき地教育研究連盟を
はじめとした教育実践の蓄積など、さまざまな論点が考えられる。しかし一方で、
複式学級のポジティブな影響は、学校規模、学級規模等の変数を考慮すれば
有意ではなくなることから、異学年で構成される複式学級が有利であるというよりも、
小規模のきめ細かい指導が重要であることが明らかになっている。」

(2)「回帰分析デザインによる学級規模校化の推定―全国の公立小中学生を対象にした分析」
(妹尾渉・北条雅一・篠崎武久・佐野晋平著 国研紀要 第143集 平成26年3月)
論文は、文科省・国研の共同実施事業「全国学力・学習状況調査
(平成21(2009)年度実施分・悉皆調査)」により得られた全国の公立小中学校に在籍する
小学6年生と中学3年生の児童生徒の個票データを利用し、
学級規模と科目別正答率との関係性についての分析を行っている。
得られた知見:
「推定の結果、小学6年生の国語については学級規模の拡大が科目正答率の低下に
つながっている可能性が示された。算数については、学級規模と科目正答率の間には
有意な関係性が認められなかった。中学3年生については、国語、数学とも、
全サンプル推定では学級規模と科目正答率の間には有意な関係性は観察されず、
±5不連続サンプルの推定においては学級規模と科目正答率の間に
有意に正の関係性が確認された。」

とりあげたいずれの論稿も「得られた知見」についてさらなる探究課題があることに触れるが、
全国一斉学力調査データを基礎にした分析として貴重な知見を示している。
「規模」問題の処理の仕方は、全国に広がった小中高等学校の再編の行方に
大きな影響を与えるが、では、自治体内の設置学校数が1小学校、1中学校で、
かつ児童生徒数の減少が激しい場合、国の手引きに記載される「規模」問題をどう受け止め、
学校システムの将来像をどう考えたらよいか。
次回は、この点に焦点を置き考察を進めることにしよう。

【プロフィール】
教育政策論、教育社会学専攻。
東京学芸大、国立教育政策研究所、文教大学等を経由し、
現在は東京学芸大名誉教授、 国立教育政策研究所名誉所員。
この間、各地の教育委員会の学校づくり等に携わるほか、
教職員対象の各種研修会講師も務める。
詳細は、次のプロフィール参照。
https://bunkyo.repo.nii.ac.jp/records/7687