今回から、若者との関わりについて、心理学の視点から小さなヒントをお届けしていきます。
現場で悩む先生方や企業のみなさんと、一緒に考えていけたらうれしいです。
若者との面接の場で、こんな経験はありませんか。
「その進路は厳しいよ」「もっと現実を見たほうがいい」。
相手を思って伝えた言葉なのに、若者の表情がふっと閉じてしまう。
そんな瞬間に、胸の奥が少し痛くなることがあります。
心理学には「自己決定理論」という考え方があります。
人は「自分で決めたい」という欲求を生まれつき持っている、という考え方です。
どれほど正しい助言でも、「決められた」と感じた瞬間に、やる気はしぼんでしまいます。
人を動かすのは、「正しさ」よりも「納得感」です。
とはいえ、私自身も高校教師だったころ、このことが分かっていませんでした。
生徒のためだと思い、「その進路は難しい」と正直に伝えたことがあります。
そのあと、その生徒は進路の話をしてくれなくなりました。
今なら、こう言い換えます。
「もしこの道を選ぶとしたら、どんな準備が必要だと思う?」
「指示」を「提案」に変えるのです。
そして選択肢を一緒に眺める。
すると若者は、自分の言葉で考え始めます。
進路は「与えられるもの」ではなく、「自分で選ぶもの」なのです。
その納得の瞬間を支えることが、先生方や私たち大人の役割なのかもしれません。
明日、若者と向き合うとき、
ひとつだけ問いを渡してみませんか。
【プロフィール】
臨床心理士。日本大学生物資源科学部教授。
専門は教育相談、コーチング、教育心理学。元高校教師。
現場での実践経験に基づき、心理学の理論を
教育・組織の現場で活用できる具体的な手法として展開している。
著書に『教室「心理術」大全』(明治図書)など。
