「『化ける要素』と『化ける環境』」筆者・小林英明

「化け」が重なっているが朝ドラの話ではない。
もちろん妖怪や幽霊の話でもない。化けたのは進学した卒業生である。
念のため申し添えると「化ける」とは、
「何かをきっかけに予測できないほどの良い状態に変化すること」
と辞書にある。

私が3学年担任の時、隣のクラスに遅刻が多く担任も手を焼く生徒がいた。
私も1年時に授業を担当したが良い授業態度とは言えなかった。
その彼が自動車整備の専門学校進学を希望した。
資格取得や技術習得を目ざす専門学校ではまずは出席が大切である。
多少の遅刻や欠席があっても試験で及第点を取れば何とかなる学校ではない。
遅刻者は教室に入れない学校さえあるそうだ。
出席して手を、体を動かして学ぶのだ。果たして続くのか、
教員達が心配する中で彼はある専門学校の自動車整備科に進学した。

翌年度、進路担当になった私には進路先から卒業生の近況報告が入る。
夏休み前に例の卒業生の学校からは欠席なしと報告があった。
順調な滑り出しでひと安心だが「油断」は禁物、心配なのは夏休み後である。
しかし私の心配をよそにその後も入る彼の情報は「順調」のままだった。
1年が経とうというころには広報の方から、
彼が入学以来皆勤であるという話を聞いた。
授業態度も成績も問題ないとのことである。
顔なじみの「広報さん」に思わず、
「どんな術を使ったんですか」と冗談交じりに尋ねると、
彼は「いやあ、好きなことを学んでいるからですよ」と笑った。
確かにそれはそうだが専門学校の強みはそれだけではない。
専門学校は職業に直結した知識や技術を確実に身に着け、
学科によっては資格の取得や資格試験の受験(検)資格の取得を目標にしている。
そのために出席管理や試験は厳しいが、
教員や学校職員のサポートは手厚い学校が多い。
学生も目標が明確な上に周囲は同じ目標を持つ同志でありライバルだ。
そのような環境で彼は変わったのだろうか。

当時、彼の進路行事参加記録を見たが、
2年生で自動車系のガイダンスに参加するまでに
放送系や音楽系、公務員系にも参加していた。
さまざまな進路行事に参加して彼は自分の好きなものを見つけたのだ。
遅刻はするが欠席はせず、嫌いな科目で時に赤点があるも単位は落とさない。
我々の目から見ればあまり褒められた日常生活や授業態度ではないが、
目標へ向けて大崩れはしないように彼なりに頑張っていたのだろう。
その経験が自分の好きな学びの道で役立ったとも考えられる。

さて、彼の場合を「化けた」というのはどうなのか。
我々教員は彼の遅刻や好ましくない授業態度ばかり見ていた結果、
専門学校進学後の変化を予測できず「化けた」と言ったのではないか。
彼なりの努力に気付けば「好きな道へ進めば変わるかもしれない」と予測し、
期待もできたのではないか。「外野」からならまだしも、
その人物を普段から知る立場で安易に「化けた」というのは、
己の観察不足を露呈しているのかもしれない。

【プロフィール】
元都立高校進路指導主任・
多摩地区高等学校進路指導協議会事務局参与/
キャリア教育支援協議会 顧問
1976年より都立高校教員。
2004年より都立拝島高校勤務、
2010年より進路指導主任として主に就職指導に当たる。
2019年3月定年退職。