なぜ「『いわゆる』高等教育の無償化」か 著者:小林雅之(桜美林大学総合研究機構 教授) 更新日: 2019年11月11日
これまで高等教育の無償化について、
「いわゆる」高等教育の無償化と限定したタイトルをつけてきた。
この理由について、今回明らかにしたい。
今回の無償化のそもそもの発端は、
2017年5月3日の憲法記念日に、安倍首相が、
次のように憲法に高等教育の無償化を盛り込むと宣言したことに始まる。
実は、首相は、
ここで明確に提言しているわけではないが、
文脈から高等教育を無償化すると読み取ることができ、
高等教育の無償化を憲法改正に盛り込むと報道された。
さらに、同年9月25日に衆議院を解散した首相は、
消費税の引き上げ分を財源に
新しい学生支援制度の創設を提唱し、
総選挙に勝利した。
この時の記者会見では、
「真に必要な子どもたち」と限定して
「高等教育の無償化」としている。
以後も首相は、
「本当に厳しい状況にある子供たち」などと
限定して無償化としている。
しかし、無償化にまつわる議論が混乱した原因の一つは、
首相が常に限定つきで提唱していた無償化が、
限定をはずした「高等教育の無償化」と称され
流布したことにある。
厳密にみれば、
この提案は高等教育の無償化ではなく、
限定的な教育費負担の軽減制度である
(一部の者に限っての無償化と言えなくもない)。
そこで本稿では、「いわゆる」と限定したタイトルとしているのである。
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(桜美林大学総合研究機構 教授 小林雅之)
【プロフィール】
東京大学名誉教授、桜美林大学教授。
主な研究テーマは「高等教育論」「教育費負担」「学生支援」「学費」。
奨学金問題の第一人者として知られ、『大学進学の機会』(東京大学出版会)、『進学格差―深刻化する教育費負担』(筑摩書房)など著書多数。