妖艶な立ち居振る舞いと知的な発言で注目を集め、テレビやラジオ、雑誌など各種メディアで引っ張りだこの壇蜜さん。その名前の由来は、仏壇の「壇」とお供え物を意味する「蜜」にあるのだと語ります。小学校から大学までは女子だけの環境で過ごし、調理系の専門学校に再進学後、葬儀関係を学ぶため別の専門学校にも入学するなどその経歴は起伏に富んでいます。いまの“壇蜜”はいかにして生まれたのか、その生き方を見ていきます。
小学校から一貫校で学ぶ。漫然と過ごした少女時代
娘の私に大学進学させたいという強い思いから、両親は小学校から大学まで一貫教育の女子校に進学させてくれました。一方、私は漫然とした気持ちで学生時代を過ごし、目立たず、人並み程度に毎日を過ごすことが最良と決めつけ、目的もないまま人生の駒を進めてしまいました。
就職活動が目前に迫った時、私には会社の中で働く姿が思い描けず、「世間は私のような存在を認めてくれはしないだろう」と、冷め切った気持ちでいました。
そんな頃、知人と和菓子屋を開業することになっていた母が、私に調理師の免許を取ることを勧めてくれました。
そのため、大学卒業後は調理の専門学校に再進学し、調理師資格を得ることができました。母が与えてえくれた“温情措置”をムダにしないよう、卒業後は和菓子工場で働きながら経験を積み、母と母の知人、そして私の三人で慎ましやかな和菓子店を開くことを夢見て日々修行に励んでいました。
母の恩師の突然死から悲しみと生きる意味を問う日々
けれども、私のもとに突然の訃報が届きました。開業資金の出資をしてくれる予定だった母の恩師が突然亡くなって、お店を開くことができなくなったのです。あまりに唐突で悲しい知らせを受け、私の目の前は真っ暗になりました。当時の私は20代前半でしたが、年齢に見合うほど精神が成熟しておらず、新しい進路を模索することもせずに、うまくいかないのを他人のせいにして過ごす毎日でした。
そして、母の恩師に対して、「なぜ亡くなったのか」という気持ちが抑え切れず、自問自答を繰り返す日々が続くことになりました。そんな堕落した人生を送る中、その事実を受け入れられない否定の気持ちが、次第に「なぜ受け入れられないのか」という疑問に変化したことで、「死についてもっと知りたい」という欲求が生まれてきたのです。
「生」と「死」を結ぶ遺体衛生保全士への道
生と死について学びたい、そうした現場で働きたい―。そんな思いが頭を離れなくなり、やがては死に関わる仕事がしたいと考えるようになりました。そこで出合ったのが「遺体衛生保全士(エンバーマー)」という仕事です。エンバーマーとは、遺体の消毒や保全はもちろん、損壊などがある場合に修復処理を行う専門家です。より深く調べるうちに、葬儀の専門学校でその勉強ができることを知り、私の進むべき道が拓けたような気がしました。しかし、母にそのことを相談すると猛反対。それでもあきらめず懇願する私に根負けしたのか、ついに一年後には入学を許してくれるようになりました。
専門学校では、最初の一年を座学として葬儀概論や解剖学、エンバーミング理論などを学びます。もう一年は研修労働という形で、実際の葬儀社で働きながら技術や知識を習得していくのですが、その中で、200 体近くのご遺体と向き合いました。エンバーミングの仕事では「遺族の方々の声に耳を傾け、己を殺す」ということが求められます。そういったことを繰り返すうちに、私自身も大きく成長することができたように思います。
エンバーマーから「壇蜜」への転身
専門学校時代は忙しく、アルバイトをする時間もありませんでした。ある時、同級生の紹介で賞金が贈られるオーディションを受けたことがきっかけとなって、モデルとしてデビューすることになりました。
当時は芸能活動を仕事にしたいとは思わなかったので、卒業後は葬儀社に就職。葬儀関連の仕事を経験しながら、生と死をつなぐ専門家として職務に従事していました。次第にエンバーマーとしてもっと活躍したいという欲求が高まり、大学病院の研究員として働ける機会に恵まれました。契約職員という形でしたが、実力をつければ正規職員への登用も目指せたことから、私の中でようやく指針が定まった気持ちになれました。
そうした矢先、アルバイトとして続けていた芸能活動が思いも寄らず花開き、二つの進路を半ば同時に選択することになりました。大学病院の上司に相談すると、「戻れないほうを選択してみたらいいんじゃないか」と、芸能活動の後押しをしてもらい、いまの仕事をしていく覚悟を決めました。
一人で悩まず、じっくり話せる人を見つけて
私は周囲の人に恵まれたことで、ここまで生きてくることができました。でも実際は、道を踏み外せば自立できず、何もできない自分であったのは間違いないと思います。ですから、一人で考え込まず、身近な人に甘えて欲しいと思います。進路について真剣に相談できる人を探してもらいたい。
そして、失敗したことや悔しい思いもいつか必ず役に立つと思って、いまという時代を生き抜いてください。
- 壇蜜(だんみつ)
- 1980年12月3日生まれ、秋田県出身。東京都内の女子大学卒業後、調理系専門学校、葬儀系専門学校に再進学を果たす。大学在籍時に取得した英語教員の免許に加え、調理師免許、日本舞踊師範の資格を併せ持つ異色のバックボーンが話題に。タレント・女優・モデル活動など多彩な才能を発揮し、男女を問わず幅広い人気を集めている。
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