物理学ってどんな学問?学べる学校や活かせる就職先を解説

物質や現象に焦点を当て、法則や原理を客観的な視点から解明していく物理学。メーカーや金融、研究職やコンサルタントなど、さまざまな業界・職種で活かすことが可能な学問です。本記事では、物理学で学べる専門分野や人気の就職先・職種、物理学を学べる学部や学科などについて紹介します。

実際に物理学を学びたい方へ向けて、通った方がいい大学・学部についてもまとめましたので参考にしてみてください。

物理学とはどんな学問?

物理学とは、自然界に存在する物質や現象を深く探求する学問です。物質の性質や振る舞い、どのような力が働くかを観測し、法則・原理を見つけて探求していきます。一口に物理学といっても分野は広く、宇宙の謎を探求する宇宙物理学や、物質を小さいスケールで扱う素粒子物理学など、さまざまな専門分野があります。こうした物理学を専門的に学んだ人の中には、大学院の修士課程や専門課程でより深く学び、研究職を目指す人もいます。

物理学で学べる主な専門分野

物理学にはさまざまな分野があるため、学びたい分野を明確にすることが大切です。どのような専門分野があるのかを知り、学校選びに役立てましょう。

進路ナビでは、物理学を学べる大学や専門学校を紹介しています。物理学について知識を深めるため、以下のページから大学や専門学校を探してみましょう。

物理学が学べる大学・短大一覧

素粒子物理学

素粒子物理学は、物質の最小単位である素粒子を対象とした物理学の分野です。主な研究手段には、加速器の実験や宇宙の観測、地下実験などがあります。素粒子物理学の分野では、物質を構成しているクォークやレプトン、質量を与えるヒッグス粒子など、さまざまな素粒子が発見されています。一方で宇宙の暗黒物質(ダークマター)など、数多くの謎が残されており、研究を通して物質や宇宙、時間・空間の成り立ちに迫ることが可能です。

物性物理学

物性物理学は、物質の特性を素粒子の振る舞いや性質から探求する物理学の分野です。幅広い物理学の分野が含まれることから、最も研究者が多い分野です。物性物理学は科学や工学など、他の学問とも密接な関わりを持っています。例えば、携帯基地局には微弱な電波を受信するための装置(光電子移動度トランジスタ)が用いられていますが、半導体内の電子の運動を物性物理学の観点から研究したことで光電子移動度トランジスタという半導体素子は誕生しました。研究範囲が多岐にわたるため、アイデア次第では新しい発見が期待できる分野です。

天文学・宇宙物理学

天文学・宇宙物理学は、宇宙に浮かぶ惑星などの天体や、宇宙の性質などを探求する分野です。宇宙の構造や起源のほか、天体の進化など、宇宙全体を取り扱います。このほか、宇宙の生命の探査も含まれます。宇宙には、ブラックホールやダークマターなど、未解明の謎が数多く残されています。天文学・宇宙物理学では計算や理論、望遠鏡による観測などを通して、宇宙における謎の全容解明を目指します。

原子核物理学

原子核物理学は、原子核やそれを構成する素粒子(ハドロン)を対象とした物理学の分野です。素粒子物理学と似ていますが、それよりも大きな原子核に重点を置いています。主に原子核のエネルギーや励起(れいき)などの研究や、放射能や核反応などの性質の解明を行います。主な研究手段は、加速器の実験や地下実験ですが、大規模計算や理論構築から原子核の振る舞いを探求することもあります。

原子・分子・ナノ物理学

原子・分子・ナノ物理学は、原子間や分子間で起こる現象を観測・解析する物理学の分野です。量子力学の解明や、量子を活用した情報処理技術の実用化を目的としています。ナノスケールの物質の振る舞いを対象にしているのが特徴で、主な研究手段にはレーザー技術を使った制御実験などがあります。

物理学を専攻した人に人気の就職先

物理学は、さまざまな業界で知識を活かせる学問です。就職先の選択肢も広がるので、理系科目が得意な方は、物理学を専攻してみてはいかがでしょうか。ここでは、物理学を専攻した方におすすめの就職先を紹介します。

メーカー

メーカーは、物理学を専攻した方に人気の就職先です。家電製品や医療機器、半導体などさまざまな分野がありますが、そのほとんどで物理学の知識を活かせます。また物理系の学科では、力学や電磁気学などについて学びます。これらの知識は、医療機器や家電メーカーにおいて、新製品の開発や既存製品の改善で活かすことが可能です。また、ナノレベルの構造を扱う半導体メーカーの場合、ナノ物理学で得た知識が役立つでしょう。

IT業界

IT業界も物理学を専攻した方におすすめの業界です。勉強した分野にもよりますが、物理学を専攻していると重宝される場合があります。IT業界では、データの解析やシステムの構築において、論理的な思考力を持つ人材が求められています。物理学では、実験結果や考察をレポートや論文としてまとめる機会が多く、そのデータを論理的に扱う機会が多いので、自然と論理的思考力が身に付きます。特にIT業界と密接に関わるビッグデータやAIなどの領域では、スキルを存分に活かせるでしょう。

金融業界

銀行や保険会社など、金融業界も物理学を専攻する方に人気の就職先の一つです。銀行や保険会社では、数字に強い人材が求められています。また、データの分析では論理的な思考力が求められますので、物理学科の学生のスキルが活かせます。特に知識・スキルを活かせるのはアナリストです。アナリストは、データや情報を調査・分析して金融の動向を予測する職種で、論理的な思考力を持ち、かつ数字に強いという物理学科生の強みが活きます。

コンサル業界

物理学を専攻した方の中には、コンサルティング業界へ進むケースも見られます。コンサルは文系のイメージがあるかもしれませんが、実際は理系の学生に向いている業界です。コンサル業界では、論理的思考力や事実を客観的に説明できるスキルが求められます。そのため、物理学を専攻して養ったスキルを活かしやすいです。コンサル業界は物理学と結びつきにくいイメージがあるかもしれませんが、物理学を専攻する方向けの業界と言えるでしょう。

教育業界

物理学を専攻した場合、教育業界も就職先の候補に入ります。教育業界では、物理学の知識はもちろん、数学など理系科目の知識も活かすことが可能です。誰かに教えるのが好きな方、物理学の楽しさを伝えたいと考えている方は、教育業界を視野に入れてはいかがでしょうか。教育業界と聞くと学校の教師が頭に浮かぶかもしれませんが、他にも塾や予備校の講師として働くことも可能です。また、学習教材の制作・編集会社に就職し、理系の教材制作などに携わる選択肢もあります。

物理学が活かせる主な職種

IT業界や金融など、多種多様な業界で知識が活きる物理学ですが、職種の選択肢も豊富にあります。学んだ専門知識を活かしたい方は、以下の職種を目指してみてはいかがでしょうか。

エンジニア

物理学の知識を活かせる職種の一つがエンジニアです。一口にエンジニアといっても、さまざまな種類がありますが、どの分野・領域においても論理的思考力が役立ちます。エンジニアはクライアントのニーズをシステムへと落とし込み、テストや検証・評価を繰り返します。物理学科の学生も、現象・事象を数値に落とし込み、実験や検証を繰り返すという点で共通点が多く、エンジニアの素質が備わっています。

研究職

研究職も物理学の知識が活かせる職種です。研究職になれば、専攻した分野をさらに突き詰め、仕事にすることが可能です。専攻分野の知識がそのまま活かせるので、物理学が好きな方はもちろん、特定分野をトコトン探求したい方には、研究職が向いているでしょう。研究職は、民間企業の研究所などで勤務するパターンと、大学や公的な研究機関で働くパターンがあります。いずれの場合でも、専攻した分野に対する深い知識が求められます。

コンサルタント

物理学を専攻している方には、コンサルタントもおすすめです。コンサルタントは相談相手(顧客)の悩みを聞き、問題・課題を解決するのが主な仕事です。顧客の現状を分析し、具体的な手段を提案する能力が求められます。物理学を専攻している学生には、コンサルタントに必要な分析能力と、提案内容を論理的に説明する能力が備わっています。コンサルタントの十分な素養がありますので、相性がよい職種といえるでしょう。

教員

教員も物理学の知識が活かせる職種の一つです。専攻した分野の知識はもちろん、物理学全般の知識を活かすことができます。物理学の楽しさを誰かに教えたい方、物を教えるのが得意な方は、教員を目指してみてはいかがでしょうか。教員になる場合、教員資格認定試験に合格して教員免許を取得する方法や、特別免許状を取得する方法があります。これらの方法なら、大学で教員の課程を履修する必要がありません。

参考:大学に通う以外の教員免許の取り方 | 私学教員の求人・転職はEMPS

データサイエンティスト

データサイエンティストも物理学の知識が活かせます。データサイエンティストは、データを分析・解析したり、活用方法を提案したりする職種です。ビッグデータやAIの普及に合わせて、データサイエンティストのニーズは高まっています。データサイエンティストは分析能力や論理的思考力が求められるため、数値などのデータ分析が好きな方におすすめの職種です。

物理学を学べる学部・学科例

物理学を専攻したい方は、慎重に学部・学科を選ぶ必要があります。また、学校によって学部の名前や学科の分け方が異なるため、必ず大学のHPや進路サイト等で、学べる分野やカリキュラムを前もって確認するようにしましょう。ここでは、物理学を学べる学部や学科を一部紹介します。

理学部物理学科

理学部物理学科は、最先端のテクノロジーや宇宙など、幅広い分野を探求できる学科です。理論や実験を通して、物理学の基礎となる物質の振る舞いや法則を学ぶことができます。カリキュラムは大学によって異なりますが、原子力工学や電子工学、地球・宇宙科学などについて学べるのが特徴。知識を活かせる業界や職種も幅広いので、進学後に目指す業界・職種を決めたい方に適しています。

理工学部物理学科

理工学部物理学科は、素粒子や宇宙などの領域について学ぶことが可能な学科です。物質の身近な振る舞いや性質から壮大な宇宙の構造・仕組みまで、自然の法則を解き明かすための理論的・実験的な手法を身に付けられます。学べる学問は物理学のほか、地球・宇宙科学や電子工学、電気工学など多種多様です。学んだ知識は研究者や教員のほか、エンジニアや技術者などで活かせます。

文理学部物理学科

文理学部物理学科は、基礎から応用まで、物理学について幅広く学べる学科です。物理に関する広い知識を身に付けたい方に適しています。文理学部物理学科が取り扱う領域は多彩です。物質の最小構成単位である素粒子はもちろん、広大な宇宙も取り扱います。そうした自然界を構成するものをテーマとして、性質の決まり方や振る舞いを実験や理論で探求していきます。物理学全般を広く学べるので、エンジニアからデータサイエンティストまで、さまざまな職種で知識を活かせます。

工学部物理工学科

工学部物理工学科は、物理学全般と工学の両方を深く学ぶことができる学科です。新しいシステムや材料、エネルギー資源などについて、工学的な側面から探求できます。カリキュラムは多彩で、材料やエネルギーのほか、原子核や宇宙などについて学べるのが特徴。大学院へ進めば、各分野をさらに深く掘り下げ、専門的な知識を身につけることが可能です。

物理学の知識を活かして取得できる免許や資格

物理学は就職だけでなく、免許や資格の取得にも役立ちます。以下で挙げる免許・資格で知識が活かせますので、興味がある方は取得を目指してみましょう。

教員免許(数学・理科)

教員免許は物理学を専攻して身に付けた知識のほか、理系科目の知識が活かせます。教員免許を取得する場合、大学などで中学校か高等学校の理科・数学一種を履修しましょう。または大学院へと進み、修士課程を修了することで中学校・高等学校の理科の専修免許を取得する手段もあります。

技術士(応用理学部門)

技術士は、科学技術に関する専門知識や能力があることを証明できる国家資格です。主に科学技術の研究や分析、評価などの業務で資格を活かせます。なお、2022年度は応用理学部門の合格率が40.2%でした。地球物理学や地質に関する分野から出題されますので、しっかりと対策しましょう。

参考:令和5年度技術士第一次試験統計

気象予報士

気象予報士は、気象に関するデータを分析し、天候を予測する天気のスペシャリストです。物理学や科学に関する深い知識や、データを分析し、客観的に評価する能力が求められます。気象予報士は狭き門で、平均合格率は5.5%ほど。一方でニーズは根強く、挑戦しがいのある資格といえます。

参考:気象予報⼠試験 実施状況

放射線取扱主任者

放射線取扱主任者は、放射性同位元素や放射線発生装置を取り扱う現場を監督する者のことです。放射線が発生する装置を使用する病院や工場、研究所では、放射線の漏れによる事故を防ぐためにこういった専門職が必要になります。第1種〜第3種まであり、物理学のうち放射線に関する分野の知識が活かせます。なお、2023年度(令和5年度)の試験合格率は、第1種が27.8%、第2種が13.1%という結果でした。これらのデータから、受験する際には特に放射線分野の集中的な学習が重要であることがわかります。

参考:受験者等の統計

環境計量士(騒音・振動)

環境計量士(騒音・振動)は、環境の計量に関する深い知識や技術を持つことを証明できる国家資格です。具体的な仕事内容としては、工場や建設工事、道路、鉄道、航空機の騒音の測定をし、人体への影響を評価する役目を担います。騒音・振動に関する環境測量士は、物理学の幅広い知識が求められます。環境計量士(騒音・振動)は難易度が高く、2022年12月に実施された試験の合格率は19.1%でした。取得を目指す場合は、音響・振動分野や関連法規を重点的に学習する必要があります。

参考:第73回計量士国家試験(令和4年12月11日実施)の結果等について (METI/経済産業省)

測量士、測量士補

測量士は、土地の位置や角度、面積などの測量を行うために必要な資格です。一方の測量士補は、測量士が作製した計画に沿って業務を実施・補佐するのが主な役割です。測量士、測量士補は試験の合格率に大きな違いがあります。2024年(令和6年)に実施された試験では、測量士補の合格率が31.4%だったのに対し、測量士の合格率は13.0%でした。なお、測量士になるには実務経験を積むか、養成施設で知識・技術を習得する必要があります。

参考:令和6年測量士・測量士補試験の合格者を発表 | 国土地理院

まとめ

理論や実験を通して、物質の特性や振る舞いを探求する物理学。目に見えない素粒子や原子から広大な宇宙まで、幅広いスケールを取り扱う学問です。専門分野も多岐にわたりますので、ぜひ興味がある分野を見つけてみましょう。ただし、学部や学科によって取り扱う領域が異なるので注意が必要です。物理学を専攻することで、メーカーやIT業界を始め、さまざまな業界で知識を活かせます。職種の選択肢も豊富で、エンジニアやコンサルタント、教員などを目指せます。また、一部の資格・免許でも物理学の知識が活かせます。物理学を専攻する際は、資格・免許の取得を視野に入れて学部や学科を選ぶのもおすすめです。

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