卒業シーズンの「言葉」 筆者:小林 英明(元都立高校進路指導主任・多摩地区高等学校進路指導協議会事務局参与) 更新日: 2020年7月29日
先日、ラジオ番組で、
タレントの伊奈かっぺい氏が学校の講演会での発言が、
ひんしゅくを買ってしまった話を紹介していた。
その言葉は私が教員をしているころ、
卒業を前にした生徒から
「何か一言書いてください」と
サイン帳や卒業アルバムを差し出されたときに、
書いていた言葉と同様のものだった。
「努力が必ず報われるとは限らない」である。
ただし、私は必ずこの言葉の意図を説明する
「付け足し」をセットにしていた。
伊奈氏も番組内では私の意図とほぼ同じ解説をしていたが、
講演会では「単品」で話してしまったようだ。
私は、この言葉を特に真面目な生徒に贈っていた。
彼らは「努力は必ず報われる」と様々な場面で
言い聞かされて来たはずだ。
そして、彼らはその真面目さゆえ、
学校生活の大抵の場面で結果的に、
「報われて」きたに違いない。
もしも、「報われなさそうな事態」になれば、
周囲の教師や親がなんとかして
「報われたように思える」評価で、
帳尻を合わせてくれたりもしただろう。
しかし、現実の社会はそんなに甘くはない。
世の中にはいくら努力しても報われないことはいくらでもある。
大人たちはそれも承知の上で、
子供たちに努力の習慣をつけさせるために、
「必ず報われる」を使っていることが多い。
どこかで真実を教えておかないと、
素直で真面目な子供たちは、
本当に報われない経験をしたときに、
「自分の努力が足りないからだ」と思って無茶をしたり、
だまされたと思って以後は努力することを
やめてしまったりするかもしれない。
私はそれが心配だった。
現実に努力が報われないことが起きる。
入試や就職試験を扱う進路指導部にいると
卒業を待たずにこの話をする場面もたびたびあった。
もちろん「付け足し」は忘れずに。
「努力が必ず報われるとは限らない。
それを承知で努力できるのが人間の素晴らしさだ」
(元都立高校進路指導主任・多摩地区高等学校進路指導協議会事務局参与 小林英明)
【プロフィール】
1976年より都立高校教員。
2004年より都立拝島高校勤務、
2010年より進路指導主任として主に就職指導に当たる。
2019年3月定年退職。