読む力と聞く力 筆者:小林 英明(元都立高校進路指導主任・多摩地区高等学校進路指導協議会事務局参与) 更新日: 2020年7月29日
「進路情報研究センターメールマガジン」読者の皆様、
2020年あけましておめでとうございます。
旧年中は私の拙い文章にお付き合いいただき、
ありがとうございました。
本年も引き続きよろしくお願いいたします。
昨秋、ある研究会で
データサイエンス関連の大学、専門学校の先生方による
パネルディスカッションを参観しました。
その中で、
「高校時代にしておくべきこと、入学後に必要な学力」
が話題になりました。
今や時代の最先端といえるIT、AIについて、
現場で指導している先生方から出たのは、
「国語の読解力、表現力」と「英語の読む・書く」の
2技能の重要性を訴える言葉でした。
データサイエンスに限らず、
大学での学習と研究を始めるにはまず国内の書物や論文を、
続いて海外のそれらを読みこなして知識を増やすことが
大切であることは言うまでもありません。
そのために、日本語と英語の読解力が必須条件なのは当然です。
周囲にいた高校の先生方を見回すと、
案の定ほとんどの人も「そうだよね」といった表情を見せていました。
大学入学共通テストにおける英語の外部検定利用は、
延期になりました。
「英語4技能」にばかり目が行って学習の土台となる
日本語、英語の読み書きの学習や評価が
おろそかになっては元も子もありません。
足下をしっかり見ないと、
つまずいたり落とし穴に落ちたりしてしまいます。
学ぶ者も指導する者も広い視野を持ちたいものです。
そんなことを考えているうちに、
「日本語の聞く力」も気になってきました。
今や各方面で重視されている「コミュニケーション力」の基本は
聞くことであると言われています。
相手の話を聞いて主旨を理解する、
他人同士の議論・会話から両者の主張を捉えて
状況を判断するなど、
社会生活ではまず聞くことが
コミュニケーションの始まりであるということでしょう。
しかし私の教員生活の中では、
話の主旨を生徒に正確に受け止めてもらえない場面が度々ありました。
つまり、日本語の聞き取り力の不足を感じたのです。
特に少し論理的な話や大人としての改まった表現などを、
彼らは苦手にしていました。
これらの力は社会に出てから身につければ良いかもしれませんが、
様々な面で「不寛容」が目立つ近年、
失敗や失礼を繰り返しつつ学ぶ余裕を、
彼らが与えてもらえるか心配です。
いっそう採点の難しい国語記述式の代わりに、
「日本語リスニングテスト」でも取りいれたらなど
というのは年始早々悪い冗談でしょうか。
(元都立高校進路指導主任・多摩地区高等学校進路指導協議会事務局参与 小林英明)
【プロフィール】
1976年より都立高校教員。
2004年より都立拝島高校勤務、
2010年より進路指導主任として主に就職指導に当たる。
2019年3月定年退職。