進路ナビニュース

子どもたちのセルフ・エスティームを高めて、 心にエネルギーを与えたい!

「第1回」

初めまして、読者の皆さん。
私は、教育コンサルタントをしている中土井鉄信と申します。
これから数回に分けて、
私が経験した学園改革についてお話をしていきたいと思います。

ちょっと、その前に、私の基本的なスタンスをお話しておきます。
私は、子どもとのコミュニケーションを通じて、
子どものセルフ・エスティームを高めることが非常に重要だと考えています。
セルフ・エスティームとは、
自分が重要な他人から重要だと思われていると実感することです。
つまり、親や先生や親友に
自分が重要な存在だと思われていると自分で実感すること。
そして、その実感が自信(自分の可能性を信じること)を強化し、
新しいこと、やらなければならないことにやる気を持って取り組むようになる、
そのような心のエネルギーのことをセルフ・エスティームと定義しています。
これからお話をすることは、
この子どものセルフ・エスティームを高める活動を通して、
子どもたちがどうなっていったのかを紹介するものです。

それでは、まず授業改革から話をスタートしましょう。
地方都市の私立高校の話です。
その学校は、朝からほとんどのクラスで「睡眠学習」をしていました。
1限目の授業から生徒はみんな寝ているのです。
初めて授業を見学した時は、愕然としたことを覚えています。
どの先生の授業も、生徒と向き合っていないのです。
低学力層の生徒(入学してくる生徒の偏差値がほとんど40以下)に対して、
自分の授業における固定観念を押し付け、
聞かないで寝ている生徒が悪いのだと言わんばかりに無視をしながら、
授業をしているのです。

しかし、ほとんどの生徒が寝ているのです。
生徒が悪いわけではありません。
第三者から見れば、先生が生徒を寝かせているように見えるのですから。
ということで、授業改革をスタートしました。
夏休みを利用して講習を企画し、
私が授業の見本を見せることから始めました。


「第2回」

この私立高校では、夏休みに講習など一切やったことがありませんでした。
まず、講習の枠組みを決め、
高校1年から3年までの時間割を作り、
私の授業を全教師が1回は見学できるように組みました。

私の授業は、高校1年生の2クラスの国語です。
高校1年生の夏に、
センター試験の国語の評論を100分間休みなしに読解するという授業です。
この時間設定は非常に大変なものになっているのか、
皆さんもお分かりになると思います。
なにせ、偏差値が40以下の生徒ですから。
教師全員、すぐに寝るだろうと思っていたそうです。
それも朝一の時間割で、5日連続です。

この授業のミッションは、5日間で、
評論の問題を解けるようにする。
それも誰一人寝ることなくでした。
こんな難しいミッションにしたのは、
そうでもしない限り、
全教師が自分の授業に気づかないと思ったからです。
工夫が足りないんだなと。
例えば、文章の中に出てきた「絶対的」という言葉の説明では、
生徒を前に引っ張り出して、身長を比べて、
比べる相手によって、背の高い低いが変わるのを「相対的」、
変わらないのを「絶対的」、そんなふうに教えていったのです。

生徒が授業中に考えるか、体を使うか、
意見を表明するか、そのような時間を作りながら、
問題を解かせて行きました。
発問を常時しながら、問題を読解していくわけです。
承認活動を徹底して行いました。
そして、5日間が経ちました。
2クラスとも、最終日には、自力で、
問一の漢字を除いて、ほんとの生徒が全問正解になりました。
漢字は中学時代にほとんどの生徒が
まじめにやっていないのでできませんでしたが。

これで、彼らは国語の授業が少し好きになったと言ってくれました
(少しかよ!と思いましたが、贅沢は言えません)。
発問をすれば、彼らは答えます。
その答えがあっていれば、素直に承認を、
間違っていれば、アドバイスを与え、
正解に近づけ、生徒の理解を助け、
「もう一歩でわかるところまで来たね!」と励ます。
このようなコミュニケーションで生徒を勇気づけました。
この過程で、この生徒たちは、
今まで寝ていた授業を寝なくてよいものだと少し理解できたようです。


「第3回」

前回は、授業改革について触れました。
今回は、朝の挨拶運動と遅刻撲滅運動について触れたいと思います。

この学校に呼ばれて、初めて訪問したとき、
生徒はもちろん、その学校の教師まで、
来訪者に挨拶することはありませんでした。
初回の理事長や校長、各部長との面談の際、
このことを話し、
まず改革は、基本動作の徹底からした方がよいと進言しました。
そして、この学校の最大の悩みが、
遅刻と中退者と万引き事件だと知るのです。

まず、私とその当時の校長で行ったことは、
朝の挨拶運動です。
校長には、次のことをお願いしました。
1. 大きな声で挨拶する
2. 挨拶しない生徒がいても叱らない
3. 生徒が挨拶してくれたら、「ありがとう」等の承認をする

校長は、2番目の「叱らない」ということについて、
叱らないと挨拶しないのではと疑問を感じて、
私に聞いてくれました。
「なぜ、叱らないのですか。叱らないと挨拶するようにならないのではないですか」と。私は、「朝っぱらから叱られるのは、気分が悪いじゃないですか。
それに、叱れば、叱った先生にしか挨拶しなくなります。
それよりは、挨拶することが素晴らしいことなんだと教えましょう!
だから、生徒が挨拶してくれたら、ありがとう!って、言ってください!」と強調し、
挨拶運動がスタートしました。

生徒たちは、校門の前に立っている二人が大きな声で挨拶をするので、
驚きながら、会釈をしたり、小さな声で挨拶したり、
無視して歩いて行ったり、いろいろでしたが、
徐々に挨拶をするようになりました。
そして、年度が替わる4月にあわせて、遅刻撲滅のために、
日課を変える準備をし、職員会議で、
日課変更の提案をしたのです。
この日課変更の提案は、難産でしたが、何とか通り、
ここからこの学校の遅刻撲滅運動は大きな成果へとつながっていくのです。


「第4回」

前回は、挨拶運動について触れました。
今回は、遅刻撲滅運動について触れます。

前回も書いたように、4月から日課を変更したのですが、
以前の日課と大きく変えたところは、
登校時間と放課後の掃除です。
以前の登校時間は、8時25分でした。
そして、掃除の時間は、放課後でした。
特に、この学校は、掃除をするのが大変で、
教職員すべてが教室に入って、生徒たちと一緒に掃除をしなければならないほど、
生徒たちは掃除が、大嫌いなのです。

私は、セルフ・エスティームを高める観点から、
掃除を放課後から朝に変えたいと思っていました。
遅刻が、自分だけの問題から、みんなの問題になるように。
そして、登校が、自分だけの問題からみんなの問題になるように。
掃除を利用して、登校時間を自分だけの問題からみんなの問題にしたいと思って、
登校時間を8時15分に変え、15分間、掃除をして、
一日をスタートさせたのです。
一部の先生は、生徒が大嫌いな掃除を朝に持ってくれば、
遅刻が減るどころか、増える一方だと思っていたそうです。

その学校は、大体20%前後が日々遅刻をしていました。
雨の日などは、25%以上が遅刻ということもありました。
しかし、逆に考えれば、80%の生徒は、遅刻もせずに学校に来るのですから、
みんなで掃除をして、綺麗な気持ちで授業をスタートさせようと考えたのです。
遅刻の常習犯も、たまには、早く学校に来たりします。
そういうとき、彼は、みんなからこう声をかけられるのです。
「みんなで一緒に、掃除をしようよ!」と。
そして、歓迎してくれるのです。
「早く来てよかったね」と。
また、遅刻の多いクラスは、遅刻をしない生徒が、遅刻の常習犯に
「明日は、早く来て、みんなで掃除をしようよ!
私達だけ掃除をするのは、不公平だと思うんだ。」と。
徐々に、遅刻がみんなの問題になり、
登校時間内に来た生徒は、
みんなの輪の中で承認されていったのです。

そして、遅刻が減りだした頃(半年ぐらいかかりました)、
遅刻者には、自分を見つめるために、
天声人語の書写を放課後やってもらうようにしました。
部活をやっている生徒も、していない生徒も、
ともに放課後拘束してやってもらうのです。
特に、部活をやっている生徒への効果は抜群でした。
部活に遅れてしまうのですから。

先にも書きましたが、授業も少しずつ面白くなり、
「睡眠学習」をする生徒も減り、学校では叱られること以上に、
当たり前にできている点を認められるようなコミュニケーションが増えて、
生徒が少し前向きになってきた結果、
1年後には、一日の平均遅刻者が、0.8%前後までになった月も出てきて、
3年後には、ほぼ遅刻がなくなりました。
このころには、茶髪の生徒もいなくなり、
次回に触れる万引き事件の件数も減ってきたのです。


「第5回」

前回は、挨拶運動と遅刻撲滅運動について書きました。
今回は、万引き事件について、書きたいと思います。
この学校の生徒は、気の良い生徒が多いのですが、
事件に巻き込まれやすいところがあって、
友だちに誘われると「イヤ」と言えないようです。

私が、この学校にやってきてから、
1日4・5件は、近所のドラッグストアや警察から連絡が入っていました。
毎日、繰り返される万引きをどう辞めさせるか、大きな課題でした。
方針として、3つ。
1.生徒のセルフ・エスティームを高めて、生徒と教師の信頼関係を強いものにする
2.生徒の夢や目標を引き出して、その目標達成のプロセスを定期的に確認する
3.万引き事件を起こしたら、徹底的に自分と向き合う時間を設ける

この3つ方針の1と2は、全体のことですが、
3は、万引きを起こした生徒と教師が向き合って、しっかり話をします。
そして、最後は、生徒が一人になって、数時間をかけて、
万引きをやった経緯やその時の気持ち、
そして、万引きを起こした今の気持ちを徹底的に書かせました。
何回か、繰り返す生徒もいましたが、徐々に万引き件数が減っていきました。
一連の学園改革は、
①自他の関係を意識する
②自分が他人から重要だと思われているという実感を持ってもらう
③生徒が全体に貢献しているという実感を持ってもらう、
この3つを中心にして進めたわけですが、
結局、これは、生徒と親や教師が絆を持つということだったのです。

関係性の強化が、生徒の行動を改善させたようです。
万引きを起こしたら、自分も他人もともに悲しむことを意識させました。
そして、万引きをせざるを得ない生徒の気持ちを自覚化させるように、
教師は共感的な傾聴をしました。
その結果、万引き件数は、ドンドン減少し、
3年後には、万引きの補導はなくなっていきました。
他人から重要だと思われているこの自分は、
他人の期待を裏切らないようになったのです。


「第6回」

最終回は、セルフ・エスティームの向上は、
学力も向上させるのだということを書きたいと思います。
授業改革については、初回に書きましたが、
もう一つ、教育課程の中で、遡行学習を徹底的に行いました。
小学校・中学校の勉強が苦手な生徒がほとんどだったので、
まずは、学習でつまずいているところを繰り返し、
映像教材で復習させました。
その過程の中で、承認活動をドンドン行って、
彼らの勉強に対する自信を取り戻そうとしました。

理解する喜び、問題が解ける喜びを教師と一緒に共有し、
勉強の場面でも生徒のセルフ・エスティームを高める取り組みを徹底しました。
すると、今までわからないことだらけだった授業が、
徐々にわかってきたのです。
そうなると、自主的に勉強をする生徒が出てきて、
進路の夢が明確になっていきました。
教師も授業を工夫するようになり、
教えることに情熱を燃やし始めました。
こうなれば、あとは、
志望校合格までのサクセスロードを作成するだけです。
3年後には、この学校では初の国立大学の合格が複数人出ました。
また、私立大学は、有名大学に数人合格が出ました。
全て初めてのことでした。

生徒のセルフ・エスティームを高めることを通して、
学園は変貌を遂げていきました。
当たり前にできていることをまず認めること、
そして、その次に生徒の課題の改善を提案すること、
この順で、生徒へアプローチをしました。
その結果、学園は変わったのです。
生徒のセルフ・エスティームを高める承認活動を
学校全体で行うことを皆さんにお薦めして、
全6回の連載を終えたいと思います。
ありがとうございました。


(教育コンサルタント 中土井鉄信)

◆教育コンサルタントのカリスマで、学習塾超人気講師でもあった
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この機会に、ぜひご覧になってください。
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