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「スピッツと土佐犬」 筆者:橋本 光央

「スピッツと土佐犬」

正岡子規ってご存知ですよね。
とにかく、すごく有名な俳人なんですが、
子規さんは、教育論に関しても言及しているってご存知ですか。

現行の学習指導要領においては
「生きる力を育むこと」が重要視され、
「知・徳・体(確かな学力・豊かな心・健やかな体)の
バランスのとれた力を育むことが大切」と示されています。
しかし、子規さんは「それだけでは不十分だ」と考えておられたようです。
というのも、明治32年に書かれた『病牀譫語(びょうしょうせんご)』というエッセイの中で、
この三育に加えて、
「美育」「技育」「気育」が大切だと書かれているからです。

「美育」とは美しいものに感動する心を育むこと、
「技育」とは生活するための技術を身につけること、
「気育」とは生きる気持ちを育むこと、です。
こういう風に言われてみると、確かに「なるほど」と思います。
教育は奥深いですよね。

ところで、『病牀譫語』の中にはもっと興味深いことも書かれているので、
ここでその部分を紹介させていただきます。
(読みにくい場合は、次段落まで読み飛ばしてもらってOK)

「子を愛せざるの親はあらず、しかも子を教ふるの親は少し。
徳育気育は学校に一任し置くべきに非ず、
家庭において十分の注意を要す。
しかれども褒むべからざるに褒め叱るべからざるに叱るが如きはその害甚だし。
むしろこれを放任し置くに如かず。
もしそれ家族親睦して和気、室に満ち、教へず叱らずして、
子弟自然に薫陶せらるる者は、
最も幸福なる家庭にして且つ徳育に最も適当せる家庭なり」
「父母にして子を褒むる者あり。学問智識を褒むるはなほ可なり。
我子の逆立の上手なるを誇り、輪を廻す事の巧なるを誇り、
竹馬に乗り得たりとて誇り、運動会に賞品を得たりとて誇る。
子に対してはその子を褒め、人に対しては側に現在する我子を誇る。
此の如くして教育せられたる子は必ずや放蕩自恣、家を滅し産を失ふに終る」

ただ、これは明治時代の文章なので、少し分かりにくいかも。
そこで、これを強引に翻訳してみます。
すると『スピッツと土佐犬』になってしまいました。

スピッツ等の小型犬って、よく吠えますね。
でも、いくら吠えられても全然怖くない。
それに比べて土佐犬等の大型犬は、あまり吠えませんよね。
でも、あまり吠えない犬が突然「バウっ!」って吠えたら、すごく怖い。
実は、これが家庭教育に必要な事なんです。

子規さんも言っているように、
「何でもかんでも、やたらめったらに褒め続ける」なんて、もってのほか。
「叱るべき時に叱り、褒めるべきときに褒める」ことが大切です。
そのためには、何らかの変化(良い変化なら褒める・悪い変化なら叱る)があったとき、
ここぞというときに「バウっ!」って吠えると、すごく効果的なんです
(ただし「ここぞ」が的を射たものでないと逆効果となる)。

でも、そのために必要なことがあります。
それは、「子供の様子をずっと見ていること」。
だって、ずっと見続けていなければ「変化」したことが分からないでしょ。
それが、子規さんの言うところの「徳育気育は学校に一任し置くべきに非ず、
家庭において十分の注意を要す」ということなんです。
「子に対してはその子を褒め、人に対しては側に現在する我子を誇る。
此の如くして教育せられたる子は必ずや放蕩自恣、家を滅し産を失ふに終る」
ってことなんですよ。
そういえば、小学校では道徳教育を評価するようになるとか。
『病牀譫語』はそうした評価の参考にもなると考えます。

(大阪国際滝井高等学校 総務部 橋本光央)

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