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「『今年の漢字』に思う」筆者・青木勝美

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毎年恒例となっている世相を表す漢字として、2024年は、「金」(キン・かね)の文字が選ばれた。
パリで開催されたオリンピック・パラリンピックの日本人選手などの活躍による、
光をあらわす「金(キン)」と、
国民の反感を買った、政治スキャンダルなどの影をあらわす「金(かね)」の
2つの意味を示しているということである。

何年も前のこと、私がその当時、勤務していたのは女子高であった。
3学年2学期終盤のころ、生徒に対して、
「最後のホームルームで、各自の今年の気持ちを漢字1字で表そう」と提案をした。
いつもは、冬休みの諸注意の時間であるが、ちょっと趣向を変えようと言葉を重ねると、
生徒は興味を持ったのか誰からも異論はなかった。
当日の運営・企画は、すべて生徒に任せることにした。
一抹の不安はあったが、当日までにクラス全員の“漢字1字”が集まったようである。
内容は、担任にも漏らすことなく準備が進められた。

そして、2学期最後のホームルームが始まった。
まず、司会者は面白そうな“漢字1字”を選び、
提出者に1分以内のコメントを求めて、うまく場を盛り上げてくれた。
後半は、重複している漢字に移っていった。「迷」と「悩」、「壁」の文字が板書された。
司会者は「悩」の提出者の1人を選びコメントを求めた。
その生徒は、いつも明るく元気で、クラスのムードメイカー。
みんなをより和ませてくれると期待し指名したと思われる。
彼女は「この1年間進路に悩んでいました。なかなか親と意見が合わず……」
ここまで言うと、言葉を詰まらせ泣き出した。
共感したのか前後左右に座っている生徒も、
目鼻をハンカチやティッシュで押さえ涙を流しているようである。
涙の輪は、教室中に広がっていった。
「でも、親を説得したよ。必ず看護師になるから、病気になったら私を頼ってね」
いつもの彼女に戻りおどけた調子で言葉を発すると、教室は、拍手と笑いと涙で充満した。
(担任よりも、“大人だな”と感じた1コマであった)

最後に司会者が、先生の“漢字1字”は何だと聞いてきた。
私が用意した漢字は、今の教室の状況にそぐわないと考え急遽変更、
この年京都清水寺で発表された「金」(なんと2024年と同じであった)の文字を黒板に大書し、
今では赤面しそうなことを言ったようである。
全員に慰労と感謝の気持ちのつもりでお菓子を配り、3学年2学期最後のホームルームは終了した。

私は、生徒に対してこれからの人生を考えるために、
いろいろ迷い、たくさん悩むことが、最高の答えを導き出せると指導していた。
私が考えていた以上に生徒は真摯に受け止め、迷い、悩み、種々の壁に当たりながら、
各自の次の人生のステージを決めていった。
これは、25年前の話である。しかし、現在の高校生も、同様ではなかろうか。
よき進路が決まりますように祈っている。

【プロフィール】
1983年4月より群馬県公立高校教員として勤務
学科主任、学年主任、保健主事、進路指導主事等歴任
2019年、平成30年度 専門高校就職指導研究協議会全国発表
2022年3月、群馬県公立高校教員完全定年(再雇用含む)
2022年4月よりライセンスアカデミー東日本教育事業部顧問として、
おもに就職関係の進路講演、面接指導等を各学校で行う

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