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「人口減少社会のコンパクトシティ構想と学校再編」筆者・葉養正明

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人口の下降減少があらわになって、生活圏の「選択と集中」(コンパクトシティ化)に
活路を開こうとする提案が、随所で聞かれるようになった。
政治の世界でも、与野党を問わず、である。
出生数は年々減少が続いており、令和5(2023)年は、
新生児数が72万人となり前年(令和4年、2022年)の77万人をさらに下回った。
平成17(2005)年に106万人であったことに比すると大きな落ち込みである。
子ども数の減少は即座に小学校への入学者減少につながる。
その際、「学校の適正規模」(小中学校12~18学級)維持を前提にすると、
容易に思いつくのは学校統廃合である。

10月21日付の読売新聞で能登半島輪島市の小学校再編について報道していた。
小学校9校を3校に統合再編する、という計画についてである。
背後には長期的な人口減少が潜んでいるが、このケースは、
令和6年1月1日に発生した能登半島地震や同年9月の集中豪雨なども背景になっている。
輪島市の人口は令和6(2024)年4月1日現在22,079人であるが、
門前町と合併した平成18(2006)年は34,750人を数えていた。以来一貫して下降が続いている。
しかも減少幅を見ると平成17~18年では373人であったのが令和4~5年には867人に拡大している。
令和5年4月1日と翌令和6年11月1日の対比では、
震災や集中豪雨の影響も受け、2,432人の減少となっている。
震災復興の進行度合いによっては、人口落ち込みはさらに長期化する懸念がある。
以上のような、人口減、就学人口減に対応する手立てとして積極的に進められるのは、
学校統廃合や小中一貫校等の方策であるが、しかし、これらは長期的、広域的な人口減のもとでは、
対症療法に過ぎない面もある。少子化や人口減抑制に向けた方策ではないためである。

代わって地域政策として登場しているのは「コンパクトシティ」の構想である。
医療・福祉・商業・教育などの生活サービスの持続のため、
住民の一定数が住む圏域の形成を誘導し人口の集約を図ろうとする。
一定人口が広域に分散するよりは生活の拠点を特定地域に集約することで、
生活の利便性を保持しようとしている。
すでに青森県や富山市などの事例が出現しているが、言葉そのものは、
D.H.メドウズ他著、ローマクラブ『成長の限界』(1972年)にきっかけがある、とされる。
我が国の政府機関では国土交通省、総務省などが施策化しているが、
経済財政諮問会議(2014年10月)提言では、コンパクトシティを
「都市の中心部に居住と各種機能を集約させた人口集積が高密度なまちを形成すること」
としている。人口減少時代に即応する都市計画づくりである。

青森県津軽半島東通村では、平成17年に小学校16校を統合して村立東通小学校が発足している。
同村を訪問すると、奇抜なデザインが目を引く東通村役場などとともに、
生活関連施設、公共施設、その核としての小中一貫校(東通小学校はその一部)などが配置される。
一見して計画的にコンパクトシティ形成が進められてきたことが分かる。
我が国の人口減の広域的な進行からすると、
「選択と集中」原理を基礎にしたコンパクトシティは飛びつきやすい。しかし、
立ち戻って考える必要があるのは、「学校の適正規模」維持を優先した学校統廃合、
それに即応したコンパクトシティのデザイン導入がどのような果実を生むか、という問いである。
地域分散型、ネットワーク型の学び拠点がベターか、
適正規模を重視して学校の集約化を図るのがベターか、折衷的モデルはないかなど、
モデル開発の推進をばねとした効果の研究が求められる。
東通小中学校の学校だよりには、長期欠席者、いじめ認知件数、学力状況などの状況が
掲載されているが、長欠やいじめの発生割合が全国に比してやや高いことや、
学力面で全国や青森県に比しても課題があることが示される。
それと大規模な学校統廃合を含むコンパクトシティ形成との関連はどうかは
さらに検討が必要であるが、次回もコンパクトシティ構想を取り上げ、
人口減少下の学校再編について考えることにしたい。

【プロフィール】
教育政策論、教育社会学専攻。大学教員として46年間過ごし、
現在は東京学芸大名誉教授、 国立教育政策研究所名誉所員。
千葉教育創造研究会(隔月1回会合)に40年以上参加し、
さまざまな世代の教職員と「教育のこれから」をテーマに探究を進めてきた。
また、「災害文化研究会」(岩手大学工学部が組織化)や
「縮小社会研究会」(京大工学部等が組織化)に所属し、
縮小社会や大震災のもとでの教育について研究を進めている。
地域復興などに際して教育が持つレジリエンス(回復力、弾性力)に関心を持つ。
<これまでの経歴や著書、論文等>
https://bunkyo.repo.nii.ac.jp/records/7687

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