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「国立大学の財政状況」筆者・桜美林大学総合研究機構 教授 小林雅之

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東京大学の授業料値上げの背景にある国立大学の状況について、少し見ていきたい。
国立大学は2004年に法人化された。この時、大学の運営の裁量が大幅に拡大するとされた。
例えば、法人化前の国立大学は国、具体的には文部科学省の施設であるので、
予算などは文部科学省と国立大学の折衝によるものの、
文部科学省が細部まで原案を作成し、国の予算として国会で審議、決定された。
これに対して、法人化後は、各国立大学が中期計画原案を作成し、
文部科学省がこれを決定することになり、予算については運営費交付金という形で一括の補助金となった。
これが大学運営の裁量の拡大という意味である。

この時、運営費交付金には、効率化係数というしくみが組み込まれていた。
これは独立行政法人にあるしくみをそのまま継承したものだった。
しかし、このことによって、各国立大学は毎年1パーセントずつ運営費交付金が減少することとなった。
これが「効率化」の意味である。これは無駄な支出を削減したり、
補助金以外の外部資金を増やしたりするためのしくみとされた。
なお、実際には、もう少し複雑な計算式となるが、ここではあえて単純化して説明している。
1パーセントの削減などたいしたことがないと思われるかもしれない。
しかし、大学の支出には削減できない固定費も多い。
たとえば、支出の大きな割合を占める人件費は、削減することが難しい。
このため、多くの大学では、専任教員が退職した後、非常勤講師で代替するなど苦肉の策をとってきた。
しかし、こうした弥縫策は20年も続ければ限界となってきている。
これが、2024年6月に国立大学協会が「もう限界」という声明を出した背景であり、
授業料値上げの動きの大きな誘因となっている。

また、この結果、外部資金の獲得によって、大学間に大きな格差が生まれることとなった。
外部資金の獲得が難しい大学は授業料収入に依存する割合の高い大学でもある。
これらの大学では、運営費交付金の削減がボディブローのように大学の経営を圧迫してきた。
なお、このことは大学間だけでなく、大学内の学部間でも同じようにあてはまる。

【プロフィール】
東京大学名誉教授、現・桜美林大学教授。
主な研究テーマは「高等教育論」「教育費負担」「学生支援」「学費」。
奨学金問題の第一人者として知られ、
『大学進学の機会』(東京大学出版会)、
『進学格差』(筑摩書房)など著書多数。

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