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「日本版『寝そべり族』?」筆者・法政大学キャリアデザイン学部 教授 児美川孝一郎

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中国で「寝そべり族」と呼ばれる若者たちが登場してきたことが話題になったのは、
数年前のことだろうか。
まったく働かないわけではないが、勤労は必要最低限にとどめて、
住宅、結婚・出産、高額な消費などは諦め、
のんびりと、自由な時間を謳歌しようとする若者が増えてきたというのである。
過度な競争社会を忌避する中で登場してきた層であり、上昇志向などは有していない。

中国の寝そべり族については、この1、2年、日本でも紹介される機会が増えてきた。
となれば、その先に関心が向かうのは、
そうした層の若者は、日本にもいるのか(どれくらいいるのか)という問題であろう。
ニートやひきこもりの問題とは、ややずれるように思う。
少し前に、地方における「マイルドヤンキー」と呼ばれた層あたりが、近いのだろうか。

とはいえ、中国の場合には「寝そべりは正義だ」という主張がSNSに投稿されてから、
この問題に注目が集まったことからもわかるように、
社会のあり方(資本主義、競争社会、立身出世主義、物質主義など)に対する抗議運動的な側面が、
「寝そべり」には見え隠れしている。
それに対して、日本のマイルドヤンキーは、社会批判のような棘は抜かれていて、
もっぱら家族や地元社会に包摂されているということだろうか。

こんなことを考えていた矢先、所属している学会の研究大会に参加してみると、
「あっ、これだ」と思わされるような研究発表に出会った。
結論だけ言うと、仕事に何を求めるのかを尋ねる量的調査を実施した結果、
「やりがい」でも、「給与や処遇」でも、「安定」でも、「ワークライフ・バランス」でもなく、
「何もない」と答える者が、若年層の中には有意に高い割合で存在しているというのである。

研究そのものは、緒に就いたばかりということなので、
今後、本格的な分析・考察がなされていくことを期待したいと思うが、
大学のキャリア支援・教育の現場に身を置く者としては、
こうした層(その予備軍を含めて)は、学生の中にも確実に存在しているという実感がある。

では、そうした学生たちとどう向き合っていけばよいのか。支援の手を差し伸べるべきなのか、
いや、個人の価値観に属する問題なのだから、そんなことは余計なお世話なのか。
考えなくてはいけない点も多く、悩ましすぎる問題である。

【プロフィール】
教育学研究者。
1996年から法政大学に勤務。
2007年キャリアデザイン学部教授(現職)。
日本キャリアデザイン学会理事。
著書に、『高校教育の新しいかたち』(泉文堂)、
『キャリア教育のウソ』(ちくまプリマー新書)、
『夢があふれる社会に希望はあるか』(ベスト新書)等がある。

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