「縮小社会の教育改革を読む―最先端技術を生かした徳之島の教育」筆者・葉養正明 更新日: 2024年10月26日
高校生のための進路ナビニュース
前回(※)は、人口縮小下の離島の挑戦に言及し稿を閉じた。
(※参照:https://shinronavi.com/news/detail/1905 )
取り上げたのは、島根県隠岐の島の事例である。
今回も引き続き離島の事例を取り上げよう。鹿児島県徳之島町の取り組みである。
同町の実践については、文科省『教育委員会月報』(2021年10月号)にも掲載されたほか、
北海道教育大釧路校へき地・小規模校教育研究センターによる著作などにも公にされたので、
取り組みの概要はよく知られる。そこで、概要を事細かに紹介することはやめ、
縮小社会とのかかわりでの教訓や課題に絞り論ずることにしよう。
同町には小学校8校(小中併設校2校を含む)、中学校4校が設置されている。
令和6年の児童数は647人、生徒数は297人である。
なお、住民人口は約10,100人で、同町の面積は104平方キロ、静岡県の下田市とほぼ同じである。
小中学校ともに児童生徒数が減少しているが、
小学校では亀津小が362人の児童数で最大、亀津中が217人の生徒数で最大となっている。
極小規模校は、手々小中学校(児童生徒数6人)、尾母小中学校(児童生徒数8人)、
山小学校(児童数8人)、山中学校(生徒数7人)となっている。
小規模化は引き続き進行することが予測されている。
そこで、徳之島では、遠隔教育「徳之島型小学校モデル」を導入している。
極小規模校と小規模校5校をネットワーク化する試みである。
上記文科省『教育委員会月報』の記事では、遠隔合同授業の導入の背景を
「児童の学びの広がり」と「教員の指導力向上」に置き、それぞれ次のような課題があるとしている。
児童の学びの広がり:
・多様な考えが出にくい
・学習集団が固定しがち
・友達から学ぶ機会が少ない
教員の指導力向上:
・教員間の指導方法研究が深まりにくい(特に複式指導)
徳之島の教職員にはこれらの諸課題への対応が求められるが、
問題は教職員には異動がつきものであることである。
それは、上記の「教員の指導力向上」でも示唆される。
それでも、ある程度の数の教職員集団が維持できれば異動があっても影響は最小限にできる。
では、国の教職員配置制度はどうなっているのだろうか。
現行法では、学校の教職員配置は学級数を基礎としている。
徳之島町を念頭に3学級校や6学級校を取り上げると次のような配置数になる。
小学校3学級(⇒教職員配置数6.5人):校長1、学級担任3、担任外0.75、養護教諭1、事務職員0.75
小学校6学級(⇒11人):
校長1、副校長・教頭0.75、学級担任6、担任外1、指導方法工夫改善0.25、養護教諭1、事務職員1
中学校3学級(⇒10.75人):校長1、副校長・教頭0.5、教科担任7.5、養護教諭1、事務職員0.75
中学校6学級(⇒13.75人):
校長1、副校長・教頭1、教科担任9.5、指導方法工夫改善0.25、養護教諭1、事務職員1
教職員数が少ない小規模校では、特色のあるプログラムを導入すればするほど、
異動してきた教職員にあたらしい教育技術や教育アイデアなどの
習得をどう促すかという課題が重要になる。
教育全体の革新に臨む「徳之島型モデル」でも同様である。
この問題の緩和のためには、教員人事に当たる教育事務所の異動の取り扱いなど、
鹿児島県教育委員会の教職員政策とのすり合わせが鍵になる。
教職員の住所地などを勘案した政策立案の重要性である。
次回は引き続き「消滅可能性」自治体に数えられた事例を取り上げ、
小規模化する学校の持続のあり方や課題を考えることにしたい。
【プロフィール】
教育政策論、教育社会学専攻。大学教員として46年間過ごし、
現在は東京学芸大名誉教授、 国立教育政策研究所名誉所員。
「縮小社会研究会」(京大工学部等が組織)に所属し、
縮小社会下の教育について研究を進める。
大震災や戦乱などの社会変動のもとにおける教育復興と地域計画についても
関心を抱く。近年の論文等には、
「東日本大震災における宮古市の子どもの生活・学習環境意識の変化と
レジリエンスー縦断調査を通して」(『災害文化研究』第6号、2022年5月)、
単著、『人口減少社会の公立小中学校の設計
-東日本大震災からの教育復興の技術』(協同出版)、などがある。