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「大学授業料の問題(1)」筆者・桜美林大学総合研究機構 教授 小林雅之

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東京大学の授業料値上げに関する報道が大きな関心を集めている。
私も全国紙5紙、地方紙3紙とさらに共同通信、テレビ2社から取材を受けた。
なかには同じ新聞社で違う記者からの取材もあった。
この問題に対するマスコミの関心の高さが窺える。
この問題は、今年5月17日の値上げの検討という報道からはじまり、
6月10日に東京大学が決定ではないと公表、6月21日の学生との対話、
それを受けて8月23日には、
「総長対話およびアンケートにおいて多く寄せられた質問・疑問について」という文書が出された。
さらに9月10日には記者会見で、
「授業料改定案及び学生支援の拡充案について」として授業料値上げに対して理解を求めた。
事態は流動的だが、東京大学はまだ最終的に値上げを決定したわけではないものの、
ほぼ値上げの方向が固まったといえよう。
※編集部注:9月24日、東京大学の授業料値上げが正式に決定した。

少し前のことになるがこの問題を理解するためには、さらに背景的な状況の説明が有用だ。
特に、東大の動きに先立ち、
伊藤公平慶應義塾大学塾長の3月27日の中教審での提案が波紋を呼んだ。
国立大学の授業料を150万円に引き上げるということが骨子だ。
その理由は良い大学教育をしようとすれば金がかかる。
学生1人あたりには約300万円かかっている。しかし、運営費交付金によって、
約54万円の授業料でまかなえる国立大学に比べ、公費負担(私学助成)が少ないため、
私立大学の授業料は国立大学に比較して高くならざるをえない。
せめて約300万円の半分は授業料でまかなうべきだ、というものだ。
こうした国公立大学と私立大学の授業料の格差の是正を
私大関係者はイクォール・フッティングと呼び、従来から繰り返し主張してきた。
その意味では決して目新しいものではない。
ただ、中教審という高等教育政策を審議する最も重要な公的な場で
150万円という3倍近い高額の値上げを私学の雄である慶應義塾大学の塾長が提案したことが、
大きな波紋を呼んだ。この提案が期せずして、
5月からの東京大学の授業料値上げにさらに関心を集めることとなったのである。
こうした授業料問題を理解するためには、日本の大学を取り巻く財政状況を理解する必要がある。
次回は、この問題を検討したい。

【プロフィール】
東京大学名誉教授、現・桜美林大学教授。
主な研究テーマは「高等教育論」「教育費負担」「学生支援」「学費」。
奨学金問題の第一人者として知られ、
『大学進学の機会』(東京大学出版会)、
『進学格差』(筑摩書房)など著書多数。

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