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「縮小社会の教育改革を読む――隠岐の島海士町の試み」筆者・葉養正明

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前回(※)は、人口縮小下の離島の挑戦に言及し稿を閉じた。
取り上げたのは、島根県隠岐の島の事例である。
(※参照:https://shinronavi.com/news/detail/1888 )
学校が設置される離島は全国で200程度であるが、離島の特色とされるのは、
それぞれ歴史や文化の違いが際立っていることであり、
隣り合っていても学校統廃合や教育上の連携は簡単ではない、とされる。
そこで学校の小規模化が進むと、島に残された小中学校をどう存続させるかという課題に直面する。
学校の規模については国の法令で「標準」が規定されているために、
教育委員会は通常学校小規模化にも限度がある、と考えるからである。

前回取り上げた隠岐の島の学校も同様で、
年々人口減少が進行するために人口減へのなんらかの歯止め策を講ずることなしには、
子どもたちの就学機会を奪ってしまうことになりかねない、という危機感が広がっていた。
そこで、海士町が打ち出したのは将来計画のつくり方の思い切った見直しであった。
自治体の将来計画は、産業振興などが優先されていることが多いが、
海士町は新しい将来計画を「教育」の魅力化を冒頭に置いて構成することにした。
島根県立島前(どうぜん)高校の寄宿舎を活用し、
海士町の教育魅力化事業をリードしたのは岩本悠氏である。
同氏については多方面から注目されいろいろなメディアで紹介されるので詳細は省略するが、
東京出身の同氏は大学在学中JICAの活動などで海外を転々とし、
帰国後ソニーに入社したのち海士町からの委嘱があって、
「人づくりからのまちづくり」に取り組むことになった。
文部科学省に招かれた際の自己紹介を見ると、その当時の活動については以下のように記載される。
「現在は、島唯一の高校を起点に、
地域起業家的人財を育成する新コースや学校―地域連携型公立塾の立ち上げ、
全国から次々世代の地域リーダーの卵を募集する『島留学』の創設など、
地域をつくる学校づくりに取り組む」

島前高校には全国の高校生が島留学のために訪れ、町人口の減少を緩和することに役立った。
ここで、注目しておきたいのは、海士町の教育魅力化にリーダーシップを発揮した岩本悠氏の存在や
海産物の鮮度を保ち東京や関西の料亭などにおろすためのCAS(臓器保存技術)の建設費用を
町幹部が給与を削減してまかなった、という事実である。
島おこし、町おこしの鍵は「人」にあることの好事例である。
これからの日本を背負う高校生には、少子化・人口減日本に立ち向かう視野を培うため、
海外を知る、社会の実相を知るなどの経験を大切にし、
第二、第三の岩本氏として成長してくださることを期待したい。

【プロフィール】
教育政策論、教育社会学専攻。大学教員として46年間過ごし、
現在は東京学芸大名誉教授、 国立教育政策研究所名誉所員。
「縮小社会研究会」(京大工学部等が組織)に所属し、
縮小社会下の教育について研究を進める。
大震災や戦乱などの社会変動のもとにおける教育復興と地域計画についても
関心を抱く。近年の論文等には、
「東日本大震災における宮古市の子どもの生活・学習環境意識の変化と
レジリエンス―縦断調査を通して」(『災害文化研究』第6号、2022年5月)、
単著、『人口減少社会の公立小中学校の設計
―東日本大震災からの教育復興の技術』(協同出版)、などがある。

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