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「縮小社会の教育改革を読む―人口減少下の自治体教育振興基本計画 その1」筆者・葉養正明

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「縮小社会」という言葉がブームになってから大分たつ。
京都大学工学部等を中心に「縮小社会研究会」が組織されたのは2008年である。以来16年。
では、これまでの16年はどう推移してきたか。
また、「失われた30年」とこの16年とはどういう関係にあるか。
「失われた30年」は、政経百科(※)では、
「1990年代はじめのバブル崩壊後に日本経済が陥っている長期間の不景気状態」としている。
(※政経百科【失われた30年】https://seikeihyakka.com/article/ushinawareta30nen )
縮小社会研究会は2008年に発足しているから、
「失われた30年」が始まって10年ほどたってということになる。

日本社会の縮小を将来像とすることと日本経済の立て直しとは、
同じベクトルを向いているとは言えない。かと言って逆方向と即断もできない。
「縮小社会」は右肩上がりの経済成長主義や開発主義を無前提に考えない、
地球環境の有限性を重視しよう、ということ以外、
その細目が明確になっているとは言えないからである。

『社会的共通資本』(岩波新書、2000年)をあらわした宇沢弘文氏は、
「ゆたかな経済生活を営み、すぐれた文化を展開し、
人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置」
を社会的共通資本としたうえで、そこには次のような資本が含まれるとする。
大気、海洋、森林、河川、水、土壌などの「自然環境」、
道路、交通機関、上下水道、電力・ガスなどの「社会的インフラストラクチャー」、
教育、医療、司法、金融、文化などの「制度資本」という3つである。
縮小社会においても、3つの資本の持続は探求の対象である。

では、現実の日本社会は縮小過程にあって、どのような教育像を打ち出そうとしているのだろうか。
この問いへの国や地方のビジョンを知るには、改正教育基本法で義務付けられた
教育振興基本計画の策定(国は義務付け、地方公共団体は努力義務)の状況を見るのが手っ取り早い。
そこで、何回かにわたり各地の教育振興基本計画を紹介しながら、
「縮小社会」への教育分野の対応としてどのようなビジョンが描かれているか分析することにしよう。

最初に取り上げるのは、離島の事例である。
我が国の離島は、総数が約6800、有人離島が約400、学校が設置される離島が約200、とされる。
徐々に減少傾向にあることは言うまでもない。
少子化・人口減に苦しむ離島にとって、それへの歯止め策をどう講ずるかが真っ先に問題になるが、
それに取り組む事例としてよく知られるひとつは、島根県隠岐の島である。

同島の海士町がよく取り上げられる。同町は人口約2300人(2024年)の小さな自治体で、
2000年には2672人を数えていたから減少傾向にあるが、その緩和が大きな課題になってきた。
このまま推移したらいずれ隠岐の島の無人化につながる、というのが町の課題になってきた。
そこから始まったのが海士町の再生、魅力化政策である。海士町は周囲を海に囲まれているので、
海産物の販路を拡大することが島おこしにとっての大きな課題になった。
そこで、浮上したのが、海産物の鮮度を保つための機械の導入(CASのシステム)であった。
医療の臓器保存技術を活用したシステムで、
それを活用し海士町でとれた海産物の鮮度を保ったまま東京築地等に届けることが可能になった。
そのための資金のねん出は町役場の職員の給与減額で進められ、
三役は40~50%減を甘受することになった。
その他島の魅力化の中核に「魅力ある教育づくり」を置き、
海士町に設置される県立島前(どうぜん)高校の寄宿舎を活用したプログラム開発が進められた。
全国各地から離島留学生を呼び込むための手立てとなり、
Iターン、Uターンなどを増やす呼び水にもなった。
海士町の教育づくりの細目は、次回引き続き取り上げよう。

【プロフィール】
教育政策論、教育社会学専攻。
大学教員として46年間過ごし、
現在は東京学芸大学名誉教授、国立教育政策研究所名誉所員。
近年は、少子化・人口減少、大震災などの社会変動のもとにおける
学校システムのあり方を主テーマにしている。
特に、2050年ころの離島、へき地、中山間地の学校設置区域制度や
義務教育拠点の持続の方法などに関心を抱いている。

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