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「『通過点』としての大学教育?」筆者・法政大学キャリアデザイン学部 教授 児美川孝一郎

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筆者が勤務する学部では、教育課程のうえでの卒業要件としては、
ゼミの履修や卒業論文を必修にはしていない。
とはいえ、もう20年も前になるが、学部が発足した当時は、
9割の学生がゼミを履修し、8割以上は卒論を提出していた。
単純化してしまえば、ゼミを履修しないのは、
初めからスポーツ推薦で入学してくる体育会所属の学生か、社会人入学の学生、
あるいは、アルバイトでも長期インターンでも芸能活動でも何でも、
大学在籍中のメインの時間を学業以外の活動に振り当てるような、ごく少数の学生だけであった。

しばらくはそんな感じであったが、発足時から10年も経つと、だいぶ様子が変わってきた。
要するに、ゼミの履修者や卒業論文の提出者が減少していくのである。
現在では、ゼミ履修が8割前後、卒論の提出に至っては6割程度になっているだろうか。
こうなってくると、
「特定の属性や活動歴を持った学生は、ゼミを履修しない、あるいは卒論を書かない」
といった分析は難しくなる。
おそらくは、次のように考える学生が増えてきたということなのだろう。
――大学入学の動機は、みんなが行くから。目的は、大卒の資格を得て、ちゃんと就職すること。
そうであれば、ゼミや卒論なしでも卒業認定は得られるのだから、
ゼミ活動とか卒論の執筆とか、そんなのは面倒臭いだけで見返りもない。タイパが悪すぎる、と。

もう何十年も前に、高校の教師たちが、
「今どきの生徒たちにとって高校は、ただの通過点でしかなくなっている。
高卒資格と大学進学という結果さえ得られればいいのだから」と嘆いていたことを思い出す。
今や大学教員も、同じ悩みを抱えるようになったということか。
こうした学生に進路アドバイスやキャリア支援をするのは、こちらの側としても、実はしんどい。
彼ら彼女らは、学業や大学教育の充実といった要素は介在させずに、ただただ結果のみを求めてくるからである。
ユニバーサル段階の大学とはそういうものか、と頭では割り切れても、悩ましさの感覚はなかなか抜けない。

【プロフィール】
教育学研究者。
1996年から法政大学に勤務。
2007年キャリアデザイン学部教授(現職)。
日本キャリアデザイン学会理事。
著書に、『高校教育の新しいかたち』(泉文堂)、
『キャリア教育のウソ』(ちくまプリマー新書)、
『夢があふれる社会に希望はあるか』(ベスト新書)等がある。

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