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「人口減少社会にどう向き合うか」筆者・葉養正明

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少子化・人口減少社会の到来に注目が集まるようになった。
しかし、「ようやく」と言ってもよいのかもしれない。
地方から東京や大阪、名古屋等に出向くと、「人口減」という言葉が嘘のように町中は人であふれ、
人々が「人口減」を実感する日常が欠けているからである。
つい先だって、「人口戦略会議」は2050年時点で消滅可能性の高い自治体を公にしたが、
今回は、この「少子化・人口減」問題をテーマに、
それへの向き合い方について考えてみることにしよう。

主要メディアが離島やへき地を取り上げ、
田舎住まいの快適さ、都会からの移住のすすめなどをテーマに番組を構成することが増えた。
離島について考えてみると、約6800の全国の離島のうち、
人の住む有人離島は約400であるが、徐々に減少傾向にある。
そのなかで学校を設置する離島は約半数であり、
こちらも学校数は漸減傾向にあり、学校が残存してもその規模は年々縮小している。
いずれは、学校が閉鎖に追い込まれることは目に見える。
メディアがこぞって離島やへき地を取り上げるのももっともである。
島根県隠岐の島の海士町のように、少子化・人口減に苦しんできた自治体が、
Iターン(人口還流現象のひとつ)の機運を高め、
「消滅可能自治体」への転落に歯止めをかけようとしてきた成功例もある。
しかし、長期的な人口減少を想定すると、国内の人口の取り合いにしかすぎないとも見られ、
人口増で苦しむ海外からの移民等を手立てとしない限り、21世紀後半期の我が国人口の維持は難しい。

以上のように考えると、人口減少社会への向き合い方としては、
(1)人口置換水準まで合計特殊出生率を高め総人口減少の克服を図る、
(2)総人口減少を容認するが、人口減少の緩和を目指しての各種少子化対策を進める
 (a:コンパクトシティ等の手段を通じて拠点的な人口回復を進める、
  b:都市部と郡部の人口均衡状態を生み出す政策を展開する等)、
(3)人口減少を積極的に容認し、
 「縮小社会」「定常型社会」における豊かな暮らしのあり方を創造する、
などが大きな選択肢として考えられる。
(3)については、地球全体としては人口増が続いており、
地球温暖化、食糧事情のひっ迫等の「地球持続可能性」の観点から、
我が国の人口減を受け入れるべきだ、とする主張である。

少子化・人口減の問題を大局的に見つめると、
課題は構造的で、かつ、我が国の伝統的な文化・社会のあり方問題にも及ぶ。
この問題に真正面から向き合わざるを得ない世代は、
現在出生している子どもたち、これから生まれる子どもたちなどの次世代であるが、
豊かな過ごしやすい環境や暮らしを用意し社会に受け入れる責任は現世代にある、と言ってよい。
我々教育界も「少子化・人口減少」問題への向き合い方を真剣に考えてみたい。

【プロフィール】
教育政策論、教育社会学専攻。
大学教員として46年間過ごし、
現在は東京学芸大学名誉教授、国立教育政策研究所名誉所員。
近年は、少子化・人口減少、大震災などの社会変動のもとにおける
学校システムのあり方を主テーマにしている。
特に、2050年ころの離島、へき地、中山間地の学校設置区域制度や
義務教育拠点の持続の方法などに関心を抱いている。

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