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「職業選択の基準」筆者・法政大学キャリアデザイン学部 教授 児美川孝一郎

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ここ数年、学校の教員不足が深刻化している。
小学校を中心に、教員の未配置が発生し、
中学・高校においても、非常勤講師が見つからないといった状況が顕著になっている。
都道府県等教育委員会は、この間、教員採用試験の見直しを進め、
試験内容や科目数を緩和・削減したり、試験日の前倒しや受験機会の複数化を図ったり、
大学3年次での受験を認めたりといった、あの手この手の「改革」に着手している。
国もまた、こうした状況を放置しておくわけにはいかず、
教職の魅力を高めるための施策を実施してきた。
学校における働き方改革には、かなり前から取り組んできたが、
それが抜本的な成果を上げているとは言いがたい。
また、中央教育審議会に設置された「質の高い教師の確保特別部会」は、
先ごろ審議のまとめ(案)を発表し、
公立学校の教員に対して残業代代わりに支給してきた「教職調整額」を、
基本給の4%(現行)から10%以上へと引き上げることを提案した。

自治体による教員採用試験いじりは、いかにもその場しのぎの、小手先の対応にしか見えない。
知人の教員にこの話をしてみても、みな苦笑するばかりである。
国による教職調整額の引き上げは、何もしないよりはましだと思うが、
これで再び教職の志望者が増えるとは、残念ながら思えない。
とすれば、本丸は、やはり働き方改革なのか。
確かに「ブラック職場」とまで揶揄される教師の長時間労働の実態は、
速やかに改善される必要がある。しかし、形式主義的に労働時間さえ減らせば、
教職の魅力は回復するのだろうか。
おそらく、ここには教師という仕事のやりがいや働きがいの問題が絡んでくる。
タイムカードと管理職による勤務時間管理で、教師の勤務時間が減少したとしても、
そのことが教師から仕事のやりがいを奪ってしまうのであれば、
そんな職場が若い人たちから支持されるとも思いにくい。

こんなことを考えていると、教職のことは脇に置いて、そもそも現在の若者は、
いったい何を基準として職業選択をするのだろうかという根本的な問題に辿り着く。
給与等の処遇なのか、勤務条件なのか、それとも働きがいか。あるいは、自分の能力や適性か。
他者からの承認もあるかもしれないし、
今どきの若者であれば、社会への貢献といったソーシャルな意識が働くこともあるだろう。
もちろん正解はない。一つだけの基準で選ぶものでもない。
人それぞれに、いくつもの基準を組み合わせたり、優先順位を付けたりしながら、決めるのだろう。
そのプロセスにじっくりと伴走し、自身による意志決定プロセスを手助けするのが、
キャリア支援・教育という営みなのだと思うが、
大学の日常において、はたしてそれができているのだろうか。

【プロフィール】
教育学研究者。
1996年から法政大学に勤務。
2007年キャリアデザイン学部教授(現職)。
日本キャリアデザイン学会理事。
著書に、『高校教育の新しいかたち』(泉文堂)、
『キャリア教育のウソ』(ちくまプリマー新書)、
『夢があふれる社会に希望はあるか』(ベスト新書)等がある。

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