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「教育イッシューのさばき方と学校現場の実感」筆者・葉養正明

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教育政策をめぐる論議は絶えない。
コロナ禍が広がり、子どもの学びの保障のためにGIGAスクール構想が前倒しになり、
全国自治体は学校のデジタル化に一斉に舵を切った。
わが国の教育の情報化は諸外国に比して立ち遅れが見られるとは、かなり以前から言われてきた。
そこで、政府が本腰でデジタル化を進めようとするのは、
文教行政にとってもっけの幸いと言える面もあった。
財政当局による予算編成が「デジタル化」を優先事項とするからである。
また、現在は、教員採用試験倍率の低下が全国に拡大し、
教員不足、それに関係しているとされる働き方改革が重要課題として浮上している。
中教審の特別部会は、
「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」に定められる教職調整額を
4%から10%以上にする提言や初任者教員の指導に当たる教員への手当て創設、
教科担任制を小学校3、4年生に拡大する等々、
教特法(教育公務員特例法)見直しも含めたさまざまな提言を打ち出している。

前者については、コロナ禍が世界各国に拡大する状況がマスコミで連日報じられてきたから、
休校措置のもとでの学びの保障や開校してからのコロナ感染の抑止、という視点に立つと、
学校現場も慣れないオンライン教育であっても「慣れるしかない」
と受け入れてきた面もあった。しかし、コロナ禍が一段落した今、
今後に向けてさらに本格的に、デジタル化、電子教科書導入等に取り組むべきと語られると、
教職員の感覚としてはいささか戸惑いを感じる、というのが率直なところであろう。
たとえば、電子教科書については、
文学作品の行間を読む学習は紙の教科書より勝ると断言できるのか等々、
教科領域の本質論に照らしての論議の積み重ねがあって導入、とも思えないからである。
さらに、生徒指導領域や特活、特別な教科道徳などについては、
デジタル化、情報化などに際しては活用の仕方を改めて考える必要が生ずる。
不登校が漸増し、いじめ、自殺、子どもの孤立などなどの深刻な問題が各地で発生する中で、
AIの活用やアバターの利用などにも視野を広げるというのは大切だが、
対面的接触を排除せずに対応する手立てが重要になる。
子どもの発達保障に向き合う学校現場には導入の前や過程での専門的な省察が不可欠である。

中教審の特別部会の「教員の働き方改革」に関する提言については、
TV、新聞等々のマスコミは、連日のごとく報道を繰り返している。
それらに対するSNSなどを含めた意見開陳等を見ると、
「教員の超過勤務」等の労働時間の圧縮には教特法の廃止まで含めた労働基準法の適用が重要、
という見解なども打ち出される。
「教員の超過勤務」問題は、1950年前後に「教師の専門性と労働者性」の対立の問題として
議論されてきたことにかかわり、教特法の維持か廃止かという二者択一に臨むには、
第二次大戦直後の時期に遡る論議を思い起こす必要がある。
第二次大戦前には教職聖職者論が広がっていたが、
戦後になると労働者性を盛り込んだ教職像が打ち出されるに及び、
「教員とは何か」という問いは喧々諤々の議論に発展していった。
小中高校教員の総数が今日では約90万人に達することを考えると、
二者択一問題に終止符を打つには、相応の時間や手続きが必要だ。
中教審特別部会委員の面々には各団体等のトップ層を網羅しているように見えるが、
教職像の原理的問題まで遡るには教員研究の専門家筋の参画が重要で、
その面の手当てが乏しいように見えるのは筆者の思い過ごしだろうか。

【プロフィール】
教育政策論、教育社会学専攻。
大学教員として46年間過ごし、
現在は東京学芸大学名誉教授、国立教育政策研究所名誉所員。
近年は、少子化・人口減少、大震災などの社会変動のもとにおける
学校システムのあり方を主テーマにしている。
特に、2050年ころの離島、へき地、中山間地の学校設置区域制度や
義務教育拠点の持続の方法などに関心を抱いている。

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