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「バイデン政権の学資ローン救済策(1)」筆者・桜美林大学総合研究機構 教授 小林雅之

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アメリカのバイデン政権の連邦学資ローン救済策は、紆余曲折を続けており、
先行きは見通せない状況になっている。
今回からこの問題を取り上げる。

バイデン政権は、一昨年8月、大規模な連邦学資ローンの救済策を発表した。
この救済策は、連邦学資ローンの借り手を対象に、約4,300万人の返済額を減免し、
うち約2千万人は借金を帳消しにするという画期的なものだった。

アメリカの学資ローンの借り手の多くはそれほど多額の負債を抱えているわけではない。
しかし、少数の借り手は多額の負債を抱え、深刻な問題となっている。
すでにコロナ禍に対する救済策として、一部で返済免除が行われていた。しかし、この救済案件、
年間所得が12万5,000ドル(世帯ベースで25万ドル)を下回る一部の借り手を対象に、
最大2万ドルの連邦ローン返済を免除するものだった。
この救済策はその対象者の大きさと多額さから賛否両論を巻き起こした。
バイデン政権は民主党政権であり、多くの民主党支持の借り手は、この救済策を歓迎した。
他方、多くの共和党支持者は、選挙目当てのバラマキ策であると批判した。
アメリカ社会の深刻な分断が、この救済策にも反映しているのである。

さらにこの問題は、連邦最高裁判所が、違憲との判断を示したことでさらに深刻な対立を生み出した。
昨年7月、連邦最高裁は、学資ローンの返済免除は立法権を掌握しようとするものであり、
政府の権限を「逸脱」するものであるという判断を示した。
連邦最高裁は、トランプ政権が、共和党寄りの判事を3人任命したことから、
中絶問題などについて、共和党寄りの判決を出している。
学資ローンの問題まで、同じような事態となったのである。

【プロフィール】
東京大学名誉教授、現・桜美林大学教授。
主な研究テーマは「高等教育論」「教育費負担」「学生支援」「学費」。
奨学金問題の第一人者として知られ、
『大学進学の機会』(東京大学出版会)、
『進学格差』(筑摩書房)など著書多数。

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