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「大学への進路希望登録」筆者・法政大学キャリアデザイン学部 教授 児美川孝一郎

高校生のための進路ナビニュース

実は、前々から「ん?」と思っていたことがある。
勤務先の大学では、大学2年の終了時に、
大学に対して進路希望登録を行うことを義務づけている。
任意ではなく、全員が行うことが前提である。
その根拠(?)として、大学ホームページのキャリアセンターのページには、
さりげなく次のように書かれている。
――「就職希望者(公務員・教員希望者を含む)は、
職業安定法に基づき大学への進路希望登録が必要となります。」

筆者が「ん?」と思ったのは、ここである。「職業安定法に基づき?」。はて? 
確かに、職業安定法の第33条の2には、

 次の各号に掲げる施設の長は、厚生労働大臣に届け出て、
 当該各号に定める者(これらの者に準ずる者として厚生労働省令で定めるものを含む。)
 について、無料の職業紹介事業を行うことができる。
 一 学校(小学校及び幼稚園を除く。) 当該学校の学生生徒等
 (以下、省略)

とある。大学は、この第33条の2の規定を根拠として、
学生に対する就職支援やキャリア支援を行っている。
ここまでは、よい。

しかし、だからと言って、この条文は、
大学が学生に進路希望登録を行うことを義務づけてよいとか、
学生に対して進路希望登録をすることを課しているわけではない。
もし、そうした規定があるとすれば、それは、各大学における規程や内規等だけのはずである。
はっきりと言うが、職業安定法を持ち出すのはおかしい。

こんなことをしているのは、本学だけかと思って、慌てて他大学のホームページも調べてみた。
すると、実際には、ある、ある。
学生の進路希望登録を必須としている大学は、けっして本学だけではない。

いったい、いつからこんな慣行が成立したのか。
かつての就職部の時代からなのか、キャリアセンターが立ち上がって、
キャリア支援・教育が活発になって以降のことなのか。
研究的な意味では、非常に興味深い。

ただ、その点とは別に、ここから見えてくるものがある。
大学のキャリア支援・教育は、
希望する学生のみを対象とすればよいという純粋なサービスに徹してはいない。
「教育」であるがゆえになのか、そこには、すべての学生を対象として、
彼ら彼女らを何とかしようとする善意のパターナリズムが駆動している。
しかし、そこに、大学の就職実績やその評判を気にする姿勢が混じっていれば、
善意のパターナリズムは、見事に大学のご都合主義ともドッキングしているのではなかろうか。

【プロフィール】
教育学研究者。
1996年から法政大学に勤務。
2007年キャリアデザイン学部教授(現職)。
日本キャリアデザイン学会理事。
著書に、『高校教育の新しいかたち』(泉文堂)、
『キャリア教育のウソ』(ちくまプリマー新書)、
『夢があふれる社会に希望はあるか』(ベスト新書)等がある。

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