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「それが問題だ」筆者・大阪国際中学校高等学校 橋本光央

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「生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ。(To be, or not to be , that is the question.)」
これは『ハムレット』の中に出てくる言葉ですが、誰もが耳にしたことがあるのではないでしょうか。
シェークスピアは世界の常識となっているので、これ以外の作品も、雑談やスピーチでよく引用されます。
というのも、話し手聞き手ともよく知っているので、
コミュニケーションツールとして適しているからです。

では、日本において「香炉峰の雪いかならん」と言われたら、
どうしたらよいのか分かる人って、どれくらいいるでしょう。
これは『枕草子』に出てくるエピソード(※)なのですが、
そういうときには「カーテンを開ける」のが正解でしょう。
しかし、ほとんどの人は「?」なのではないでしょうか。
『枕草子』は日本人にとって、
イギリス人がシェークスピアを大切にしているのと同じように大切な作品なのに、です。

※当時の常識として白居易『香炉峰下新卜山居』という漢詩があり
 (今でも高校の教科書に採用されている)、その中に、
 「香炉峰雪撥簾看(香炉峰の雪は、すだれを上げて見る)」というフレーズが出てきます。
 これを踏まえて中宮様が教養を試すクイズを出されたのです、「香炉峰の雪いかならむ」と。
 すると清少納言が言葉ではなく、御簾を上げるという行動で示したので、そのことを褒めた。

最近は「コミュニケーションが大切」と言われますが、
そのために必要なのは、単に話をする能力ではありません。
良好なコミュニケーションには、共通理解している知識が必要なのです。
だから、皆が勉強をしておかないといけないのです。
加えて、国際化を意識した場合、古典の知識が不可欠です。
というのも、「日本の歴史や言語、そして自身のルーツに関して興味がない」というのは、
「私は日本で生まれたのですが、日本人ではありません」と言っているようなものですから。
国際社会では「自分の民族的・宗教的・人種的なルーツに興味がない」、
なんてありえないことなので、外国人にはまったく理解できないことなのです。
そんな人が、国際社会で信用されることはありません。
ところで、「普段、古語で話すことはないのに、どうして古文や漢文を勉強しないといけないの?」
と思っている学生は多いのですが、これがその理由なのです。

学校は、生徒が勉強を学ぶところです。
しかし、勉強を強要するのではなく、まずは「どうして勉強しないといけない」のか、
その理由を理解させることが大切だと考えます。
そのときに、自分の専門科目において「なぜ勉強しないといけないのか」、
その理由を説明できない先生がいたならば……、That is the question.

【プロフィール】
1989年より大阪北予備校に勤務、
2007年より大阪国際学園に勤務。
橋本喬木・天野大空のペンネームにてショートショートを執筆。
光文社文庫『ショートショートの宝箱』シリーズ等に作品を提供。
https://yomeba-web.jp/special/ss-cam5/

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