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「高卒求人・高卒就職支援シリーズ(14)親と同じ職業に就く」筆者・小林英明

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進路指導部で就職担当をしているころ、親と同じ職業を希望する生徒にしばしば出会った。
親ではなく祖父母や兄、姉の場合もあった。
一見「職業の世襲」のようでもあるが、職業選択時の生徒達とその親の考え方は「世襲」とは大きく違う。

昔と違って近年は入学時に保護者の職業、勤務先に関する情報を求めることがなくなったため、
教員が保護者の職業を知る機会は少ない。
そのため私が保護者の職業を知るのは希望職種の理由を尋ねて、
「父(母)がその仕事(関連する仕事)なので」という答えを聞いたときが最も多い。
就職後のミスマッチは周囲の勧めるままに職業を選んだケースに多いため、
このような場合は必ず親に勧められたかどうかを確認する。
すると答えはほぼ一様に「NO」である。
中には反対された生徒や反対はされないまでも本当にそれで良いのかと念を押された生徒もいた。
私の記憶では、むしろ手放しで喜んだ親御さんのほうが少なかったように思う。

倉庫管理のフォークリフトオペレータを希望した生徒は、
幼少時に父親の職場を見学する機会があり、働く父親の姿と操作技術に憧れを持ったそうだ。
そのときからずっとめざしていたわけではないが、
進路を選択するときになって当時の気持ちを思い出したそうだ。
父親が車掌として勤務する鉄道会社に就職した生徒は、
父親の定年までに運転士になることを目標にしていた。
卒業から数年後に採用担当の方から、
「現在、彼は車掌として乗務しています。いずれは運転士試験を受けます。」をいう話を聞いた。
福祉施設を選んだ生徒は介護職の母親から毎日のように
仕事の苦労話と同時にやりがいや喜びも聞いていた。
希望を伝えてからは母親から労働環境の良い施設を見つけるコツなど、
経験者ならではのアドバイスをもらったそうである。
その他にも二人の生徒はそれぞれの姉と同じ職業であるスーパーマーケットとホテルに就職した。

親や兄や姉と同じ職業を選ぶというと世間では「家族の絆」のような話を考えがちだが、
生徒達は親の仕事だから、という単純な理由で選んだわけではない。
仕事に誇りを持ち懸命に働く姿を見たり、苦労や喜びの話を聞いたりすることで、
その仕事に興味を持ち、魅力を感じて自分の仕事として選択している。
もちろん家族が就いている職業ということで情報に接する機会が多かったことは確かではあるが。

働く現場を見たり、仕事の喜びや苦労、従事者しか知らない楽しさ等について聞いたり、
さまざまな情報に接する機会が多ければ多いほど、
その職業に対して興味や憧れを持つ可能性は高くなる。
親や家族でなくても多くの職業人がそれぞれの仕事についてこれらの情報を積極的に伝えることは、
その職業を希望する若者を増やすことにつながるはずである。

【プロフィール】
元都立高校進路指導主任・
多摩地区高等学校進路指導協議会事務局参与/
キャリア教育支援協議会 顧問
1976年より都立高校教員。
2004年より都立拝島高校勤務、
2010年より進路指導主任として主に就職指導に当たる。
2019年3月定年退職。

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