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「定常型社会(縮小社会)における社会の分断、社会的孤立の問題」筆者・葉養正明

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前回( https://shinronavi.com/news/detail/1813 )は少子化・人口減に焦点を当て、
定常型社会、縮小社会と呼ばれる社会類型のもとでの学習システムの持続について考えてきた。
ところで、この社会類型の懸案としては、少子化・人口減の問題に加え、
社会の分断、社会的孤立の問題を挙げることができる。

「社会の分断」については、ウクライナ戦争やイスラエル・パレスチナ戦争などが日夜報じられ、
「グローバル社会」の実相は「分断社会」なのかという懸念を、多くの人々が抱き始めている。
それは同時に、分断された個々の「社会的孤立」の問題でもある。
定常型社会は、少子化・人口減への対応策として、
ChatGPTやAIの導入、オンラインシステムの拡充などに焦点を当てようとしているが、
それらは「社会の分断」や「社会的孤立」に対する手立てにもなるのだろうか。
「社会の分断」や「社会的孤立」の対極は、「社会的包摂」あるいは「包摂社会」になろうが、
では、ChatGPTやAI、情報システムの拡充で包摂社会への確かな扉を開くことは可能なのか。
小論がテーマにするのは、以上のような疑問である。
考察に取り掛かる出発点として、
2023年に法制化された我が国の「孤独・孤立対策推進法」を取り上げてみよう。

右肩上がりの社会経済の成長が影を潜め、
日本社会の病理的問題に焦点が当てられるようになって登場したのが、
「社会の分断」や「社会的孤立」の問題であった。
海外のたとえばイギリスでは、2018年1月に「孤独担当大臣」が世界で初めて設けられた。
当時のテリーザ・メイ首相が、「孤独は現代の公衆衛生上、最も大きな課題の一つ」として、
担当大臣にトレイシー・クラウチ議員を任命したことに始まる。
孤独は、肥満や一日15本の喫煙以上に体に悪く、孤独な人は、社会的なつながりを持つ人に比べ、
天寿を全うせずに亡くなる割合は1.5倍に上がるとの調査結果も明らかにされた。
孤独で生じる経済的損失は、約4.8兆円に達するとしている。

我が国の法制化は、このイギリスの取組みに刺激を受けてのことと推測できるが、
2023年の通常国会で制定された「孤独・孤立対策推進法」の第1条には、
その目的を次のようにうたう。
「この法律は、社会の変化により個人と社会及び他者との関わりが希薄になる中で、
日常生活若しくは社会生活において孤独を覚えることにより、
又は社会から孤立していることにより心身に有害な影響を受けている状態にある者の問題が
深刻な状況にあることを踏まえ、孤独・孤立の状態となることの予防、
孤独・孤立の状態にある者への迅速かつ適切な支援、
その他孤独・孤立の状態から脱却することに資する取組について、
・・・総合的な孤独・孤立対策に関する施策を推進することを目的とする。」

教育の情報化、デジタル化は人々の間、遠隔地間のネットワークを築くことをめざしている。
ではその取組みは、「社会の分断」「社会的孤立」克服策にもなるのだろうか。
オンライン、デジタル化のもたらすネットワークの構築と
対人的コミュニケーション、対面性の意義、アナログ方式との関係性等について、
次回のコラムでさらに深めよう。

【プロフィール】
教育政策論、教育社会学専攻。
大学教員として46年間過ごし、現在は東京学芸大名誉教授、
国立教育政策研究所名誉所員。
少子化・人口減少、大震災や戦乱などの社会変動のもとにおける
学校システムのあり方などを主テーマにしている。
近刊論文は、「縮小社会における学び拠点の脱構築とレジリエンス
―東日本大震災後の宮古市の小中学校の社会的費用に関連して」
(『淑徳大学人文学部研究論集第8号』2023年3月)。
単著は、『人口減少社会の公立小中学校の設計
―東日本大震災からの教育復興の技術』(協同出版)、
『小学校通学区域制度の研究―区割の構造と計画』(多賀出版)、その他。

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