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「職業としての教師の魅力はどこに?」筆者・法政大学キャリアデザイン学部 教授 児美川孝一郎

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勤務先の大学ではずっと教職課程の教育に携わってきたが、正直に言って、
教師論のようなテーマは、自らの研究関心にそれほど近いものではなかった。しかし、
そんな筆者でさえ、ここ数年は教師や教職について、いろいろと考えざるをえなくなってきた。

近年は、教職をめぐる問題が、世間的にも注目を浴びてきた。
当初は、教師の長時間過密労働の実態が明るみになることで、
学校の「ブラック職場」ぶりが問題化した。
そしてその後は、政策的にも、学校における「働き方改革」の実現が
謳われるようになった。しかし、働き方改革の実効性は、そう簡単には上がらず、
そうこうしているうちに、若い世代から見た教職の魅力が揺らぎはじめた。
実際に、教員採用試験の倍率も、下がっていった。
その結果、正規採用の教員はともかく、臨時的任用等の非正規教員の不足が大量に生じるようになり、
全国の学校現場では、年間を通した教員の未配置という深刻な問題が発生するようになった。
これが、教職をめぐる問題の現在地である。

こうした事態に対する政策的な対応は、国レベルでも、各地の教育委員会レベルでもほぼ共通している。
一つは、教員採用試験の改革であり、そこには試験日程の早期化、
試験内容・方法の緩和・弾力化、社会人経験者の採用促進、奨学金返還の支援等のメニューが並ぶ。
もう一つは、教師の処遇の改善であり、働き方改革の実効性を高める施策とともに、
給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)の改正によって、
教職調整額の引き上げや各種手当ての充実等を図ることがめざされている。

こうした対応が、無駄であるとまでは言わない。しかし、根本的なことが、抜け落ちてはいないだろうか。
教員の処遇の改善を図るのであれば、正規の教員の数をもっともっと増やすことが必須である。
そして、教職の魅力を取り戻すためには、
教師や教師集団の自主性や裁量が、抜本的に認められる必要があろう。
これらはどちらも、1990年代後半以降の新自由主義的な教育改革、
とりわけ「ニュー・パブリックマネジメント」に基づく学校管理運営改革や
教員人事改革によって失われたものである。
教師のやりがいや働きがいにかかわるこうした問題こそが、
実は、現在の教職の魅力喪失という事態の根底に横たわっているのではないのか。

教職に限らず、若者の職業選択について考えるとき、
勤務条件や処遇という問題はもちろん無視できないが、
やりがい(働きがい)というファクターを等閑視するわけにはいかない。

【プロフィール】
教育学研究者。
1996年から法政大学に勤務。
2007年キャリアデザイン学部教授(現職)。
日本キャリアデザイン学会理事。
著書に、『高校教育の新しいかたち』(泉文堂)、
『キャリア教育のウソ』(ちくまプリマー新書)、
『夢があふれる社会に希望はあるか』(ベスト新書)等がある。

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