「感激するために」筆者・大阪国際中学校高等学校 橋本光央 更新日: 2024年3月29日
高校生のための進路ナビニュース
予備校勤務時代に、国語科の久禮先生と旅行に出かけたときのことです。
私なんかは、ゆるやかな山道を歩きながら「わぁ、キレイ!」と叫んでいただけなのですが……。
あるところで、小さな川の流れに漱(くちすす)ぎした久禮先生が、微動だにしなくなったのです。
「どうされたんですか」と声を掛けた私に、
「芭蕉もこの水で喉を潤したかと思うと、感激して」と言われたのです。
そういえば中学生の時、山口への修学旅行から帰ってきた後、
担任(社会担当)の谷口先生から「修学旅行で感激したところは」と訊かれました。
すると、ほとんどの生徒が「秋芳洞」と答えたのに対して、
先生は「私は、ここから明治維新がはじまったと思うと、萩で胸がいっぱいになった」
と言っておられました。
学校教育からは離れますが、私自身においては、
はじめてSF作家の堀晃さんとお話をさせていただいたときです、大感激したのは。
一般的には、それほど知名度は高くない(堀先生、ごめんなさい)かもしれませんが、
第一回日本SF大賞を受賞されたこともあって、SF好きにとって特別な存在だったからです。
しかも、その時に出てきた単語というのが、
星新一・小松左京・筒井康隆に始まり今日泊亜蘭やら広瀬正やら……。
私の大好きな作家の話がバンバン飛び出してきて、むちゃくちゃ感動したことを覚えています。
逆に、元・乃木坂46の高山一実さんと仕事をしたときには、
「綺麗だなぁ」と思ったものの、それほど感激はしませんでした。
というのも、当時、私は乃木坂の曲を知らなかったからです。
結局、感激するためには知識が必要だ、ということです。
確かに山道を歩いていて「キレイだなぁ」と思うこともあるでしょう。
芸能人に出会って嬉しいこともあるでしょう。
でも、もっと詳しい情報を持っていれば、もっと深い知識があれば、もっともっと感激できるのです。
分からないことがあれば、スマホで調べる。それは悪いことではありません。
でも、自分の知識が具象化されたものに巡り会ったとき、その感激は並大抵ではありません。
だから、知識が必要なのです。そして、学校教育においては、国語・数学・理科・社会・英語etc.
何か一つでもいいので、生徒たちに「もっと深い知識を得たい」と思わせる、
そんな授業をしなければならないのです。
きっと、それは一人ひとりの大感激、イコール豊かな人生へと繋がります。
【プロフィール】
1989年より大阪北予備校に勤務、
2007年より大阪国際学園に勤務。
橋本喬木・天野大空のペンネームにてショートショートを執筆。
光文社文庫『ショートショートの宝箱』シリーズ等に作品を提供。
光文社文庫『ショートショートの宝箱』