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「感激するために」筆者・大阪国際中学校高等学校 橋本光央

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予備校勤務時代に、国語科の久禮先生と旅行に出かけたときのことです。
私なんかは、ゆるやかな山道を歩きながら「わぁ、キレイ!」と叫んでいただけなのですが……。
あるところで、小さな川の流れに漱(くちすす)ぎした久禮先生が、微動だにしなくなったのです。
「どうされたんですか」と声を掛けた私に、
「芭蕉もこの水で喉を潤したかと思うと、感激して」と言われたのです。
そういえば中学生の時、山口への修学旅行から帰ってきた後、
担任(社会担当)の谷口先生から「修学旅行で感激したところは」と訊かれました。
すると、ほとんどの生徒が「秋芳洞」と答えたのに対して、
先生は「私は、ここから明治維新がはじまったと思うと、萩で胸がいっぱいになった」
と言っておられました。

学校教育からは離れますが、私自身においては、
はじめてSF作家の堀晃さんとお話をさせていただいたときです、大感激したのは。
一般的には、それほど知名度は高くない(堀先生、ごめんなさい)かもしれませんが、
第一回日本SF大賞を受賞されたこともあって、SF好きにとって特別な存在だったからです。
しかも、その時に出てきた単語というのが、
星新一・小松左京・筒井康隆に始まり今日泊亜蘭やら広瀬正やら……。
私の大好きな作家の話がバンバン飛び出してきて、むちゃくちゃ感動したことを覚えています。
逆に、元・乃木坂46の高山一実さんと仕事をしたときには、
「綺麗だなぁ」と思ったものの、それほど感激はしませんでした。
というのも、当時、私は乃木坂の曲を知らなかったからです。

結局、感激するためには知識が必要だ、ということです。
確かに山道を歩いていて「キレイだなぁ」と思うこともあるでしょう。
芸能人に出会って嬉しいこともあるでしょう。
でも、もっと詳しい情報を持っていれば、もっと深い知識があれば、もっともっと感激できるのです。

分からないことがあれば、スマホで調べる。それは悪いことではありません。
でも、自分の知識が具象化されたものに巡り会ったとき、その感激は並大抵ではありません。
だから、知識が必要なのです。そして、学校教育においては、国語・数学・理科・社会・英語etc.
何か一つでもいいので、生徒たちに「もっと深い知識を得たい」と思わせる、
そんな授業をしなければならないのです。
きっと、それは一人ひとりの大感激、イコール豊かな人生へと繋がります。

【プロフィール】
1989年より大阪北予備校に勤務、
2007年より大阪国際学園に勤務。
橋本喬木・天野大空のペンネームにてショートショートを執筆。
光文社文庫『ショートショートの宝箱』シリーズ等に作品を提供。
光文社文庫『ショートショートの宝箱』

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