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「定常型社会(縮小社会)の教育像 その2」筆者・葉養正明

高校生のための進路ナビニュース

前回( https://shinronavi.com/news/detail/1806 )の続編として、
「定常型社会(縮小社会)」における教育像について検討することにしよう。
特に今回は、学校のデジタル化などに焦点を当て、
定常型社会における教育システムのあり方について考えることにする。

2019年文科省は教育領域におけるデジタル化の推進のためGIGAスクール構想を打ち出したが、
2020年春世界各地で新型コロナの発生が明らかになり、
ICT活用等の遠隔教育には強い関心が注がれることになった。
わが国では特に、安倍首相(当時)による2020年3月2日から春休みまでの一斉休校要請が発出され、
各地の学校は、GIGAスクール構想の前倒しに大わらわになった。

コロナ禍は世界大の疫病であったため、
国連やWHO、UNICEF、UNESCO、世界銀行、OECD等の国際機関は一斉に、
従来の疫病対策から得られた知見や調査報告を相次いで世界に発信し始めた。
ここで、UNESCOが2020年10月に公表した報告
(「COVID-19は何をもたらし、世界はどう対応したか」)を取り上げると、
「3,学びの喪失を緩和するための支援の再開」の個所では、次のように指摘する。
「調査に応じた84カ国は、学校再開時に学習の喪失を補償するための付加的な支援プログラムを導入している。
とくに低所得国では、生徒のキャッチアップを支援するための補償プログラムという方式をとっている。
高所得国では、4カ国に1カ国では、付加的な支援策は導入していない。
また、高所得国では、正規の授業日の代替として遠隔学習を想定する傾向が強く、
学校閉鎖が学習の喪失や成績ギャップにつながる懸念が抱かれていることを示している。」

以上に触れられるように、技術力がある場合には、
学校閉鎖による「学びの喪失」への対応策は「効果的な遠隔学習の展開」が中心になっている。
そこで、さらにUNESCOによる次の文章も一瞥しよう。
「COVID-19の拡大を防ぐため、世界が学校閉鎖に踏み切るとき、
各国政府は遠隔学習の手段を提供するため素早い対応をしている。
オンラインのプラットフォーム構築、TV、ラジオ、家庭に頒布する印刷物などを通して。
これらの手段がすべての人々に均等に活用可能ではないと認識しながらも、
各国ともこれらのプラットフォームを活用可能になるように、
また、教師や親、支援者を支えるために努力を進めている。」
以上のUNESCOの記述は、家庭や地域、所得格差などに起因した、
インセンティブ・ディバイド(学習意欲格差)にも触れているが、
学校閉鎖下ではオンライン学習が重要な意義を有することに言及している。

未来社会が定常型社会(縮小社会)に移行することを想定すると、
学びの拠点が広域的な地域を基盤にすることになっても、
遠隔学習を組み込んだ教育システムを設計すれば乗り越えられる可能性は大きい。
離島などの場合にも、人工衛星などを活用しての
遠隔学習など学びの保障がしやすくなることが考えられる。しかし、なおかつ課題として残るのは、
遠隔教育は施設型学校で展開されてきた対面的コミュニケーションを基盤とした学びを
完全に代替できるか、という問いである。
UNESCO等の文書でも、コロナ禍での「社会的孤立」の問題が取り上げられる。
次回はこの問題に言及しよう。

【プロフィール】
教育政策論、教育社会学専攻。
大学教員として46年間過ごし、現在は東京学芸大名誉教授、
国立教育政策研究所名誉所員。
少子化・人口減少、大震災や戦乱などの社会変動のもとにおける
学校システムのあり方などを主テーマにしている。
近刊論文は、「縮小社会における学び拠点の脱構築とレジリエンス
―東日本大震災後の宮古市の小中学校の社会的費用に関連して」
(『淑徳大学人文学部研究論集第8号』2023年3月)。
単著は、『人口減少社会の公立小中学校の設計
―東日本大震災からの教育復興の技術』(協同出版)、
『小学校通学区域制度の研究―区割の構造と計画』(多賀出版)、その他。

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