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「盲腸の手術」筆者・大阪国際中学校高等学校 橋本光央

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私は痛さに負けないというか、我慢強いというか、鈍感というか……。
それは、高校に入学した年のGWのことです。
それまでもお腹が痛い日が続いており、ずっと我慢していたのですが、
ある時、体がすこし揺れるだけで激痛が走るようになったのです。もう、身動き一つできません。
その日はGWで休みだったのですが、
無理を言って、かかりつけの田中医院で診てもらうことができました。
すると、田中先生は「命にかかわる」と言って、即手術が行われることになりました。
そして手術室に運ばれ、お腹を開いた瞬間、
先生は「これはヒドい。親を呼んできなさい」と言ったのです。
今ならありえないことですが、当時は寛容だったのでしょう。
先生は、手術室に親を呼び入れ、病状の説明を始めたのです。
「虫垂が破裂して、その膿がお腹の中に広がっています。かなり危ない状態だと思ってください」と。
部分麻酔だったから私は意識はあったのです。もう、気が気じゃありませんでした。
結果、手術は成功。ただ、そのまま入院し、高校に復学したのは9月になってからでした。

昔はお腹の右下が痛くなると「盲腸、盲腸」と言って、すぐに手術したものです。
ところが最近は虫垂を切除しなくなりました。
溜まった膿を排泄するドレナージだとか、抗生物質を投与して炎症を緩和させることができるからです。
これは盲腸に限ったことではなく、手術をしなくても対処できる病気は手術しなくなってきています。
結果、入院日数が短くなり、身体への負担が少なくなって、患者にとって良いことずくめです。
しかし、一説によると「外科医の技術が低下する」ことが懸念されているようです。
というのも、昔は町医者でも手術をしていたし、
成り立ての外科医でも簡単な虫垂炎の手術で経験を積むことができたのです。
しかし、今では町医者や若手の外科医が執刀する機会が激減し、
技術を磨く機会がなくなってしまったのです。

実は今、日本では専門医が増えています。逆に、総合医が激減しています。
確かに、高度な専門医療を受けることは良いことなのですが、
何でもできる(言い換えると、どんなことにも対応しなければならない地域医療に就くことができる)
力を持った医者が少なくなっているのも現実です。
昔はよかったというつもりはありませんが、専門医ばかりを育成するのではなく、
オールマイティの総合医を育てることも必要なのではないでしょうか。
だって、もしあのとき田中先生がいなければ、私は……。

もしかすると、これは医学に限ったことではなく、すべての仕事に対して言えることかもしれません。
広い視野をもち、さまざまな知識をもって、総合的に判断することから、
間違いのない正しい行動が選択できるようになるに違いないと思うのです。

【プロフィール】
1989年より大阪北予備校に勤務、
2007年より大阪国際学園に勤務。
橋本喬木・天野大空のペンネームにてショートショートを執筆。
光文社文庫『ショートショートの宝箱』シリーズ等に作品を提供。
光文社文庫『ショートショートの宝箱』

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