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「定常型社会と縮小社会」筆者・葉養正明

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少子化・人口減少が続いている。
これから成人期を迎える若者たちの社会はどのようになっていくのだろうか。
少子化・人口減の時代を迎え、
「定常型社会」という言葉を用い問題提起したのは広井良典氏(京都大学教授)であった。
20年ほど前のことである。氏はNHKインタビューで次のように述べられる。

「私は2001年に『定常型社会――新しい「豊かさ」の構想』(岩波新書)という本を出しまして、
私たちが生きる社会や経済においてこれからも「拡大・成長」をめざしていくのか、
それとも「定常型社会」を求めていくのかを問いかけました。
「定常型社会」とは、右肩上がりの成長、
特に経済成長を絶対的な目標としなくとも十分な豊かさが実現されていく社会のことです。
「ゼロ成長」社会といってもいいかもしれません。
当時は「定常型社会」なんてものはあり得ないという異論がかなり多かったのですが、
最近は「拡大・成長」が望めなくなりゼロ成長でも贅沢というくらい、
マイナス1~2%ぐらいがようやくだろうという見方がされるようになってきて、
「定常化社会」について改めて真剣に考える必要があると思っています。」

一方、京都大学工学部等の関係者を中心に2008年に「縮小社会研究会」が組織された。
2013年に一般社団法人となり今日に至っている。
同会の主張は、定常型社会論と類似しているが、2008年のよびかけには次のように記載される。

「昨今、産官学で「持続型発展のための」と銘打った技術開発や研究がもてはやされている。しかし、
本当に持続型の発展は可能かと問うと、資源枯渇にせよ、あるいは環境問題にせよ、
その将来に対していささか悲観的にならざるをえない。
楽観的に持続型発展を推し進めると、世界は資源を奪い合う弱肉強食の修羅場と化し、
やがては日本も弱肉のグループに入ることにならないともかぎらない。
修羅場的な破局を回避するためには、
「エネルギー消費、ひいては経済規模、の縮小」を真剣に考える必要があるのではないだろうか。
縮小というと、人は「江戸時代に戻るのか」と問うであろうが、
われわれは、あえてイエスと答えなければならない事態を将来迎える、と危惧する。
それは、化石燃料が畢竟枯渇するとするならば、究極的には避けられないであろう。
ただ、そこに行き着く時間を長くし、その過程をスムーズにすることは、少なくとも可能であると信じ、
それゆえそのための方策を社会科学ならびに科学技術の領域で検討する必要がある、と考える。」

以上を見つめると、両者の論調は類似する。
後者は特に、人口3000万人前後であった江戸期の社会到来もあえて甘受する姿勢に立っている。
地球の有限性を踏まえると果てしない人口増加は破滅につながる、という訳である。
政府は少子化対策に取り組み始めているが、若者を待ち受ける未来社会は、では実際にどうなるか。
仮に、定常型社会や縮小社会が待ち受けているとするとき、
教育や福祉、経済、社会の姿はどう変化することになるか。
若者を待ち受ける職業構造はどう変化するだろうか。
今読み終えようとしている図書、河合雅司著『未来の地図帳』(2019年、講談社)は、
この問題を人口問題の視点から論じているが、
同書を下地にしながら数回にわたり考えてみることにしよう。

【プロフィール】
教育政策論、教育社会学専攻。
大学教員として46年間過ごし、現在は東京学芸大名誉教授、
国立教育政策研究所名誉所員。
少子化・人口減少、大震災や戦乱などの社会変動のもとにおける
学校システムのあり方などを主テーマにしている。
近刊論文は、「縮小社会における学び拠点の脱構築とレジリエンス
―東日本大震災後の宮古市の小中学校の社会的費用に関連して」
(『淑徳大学人文学部研究論集第8号』2023年3月)。
単著は、『人口減少社会の公立小中学校の設計
―東日本大震災からの教育復興の技術』(協同出版)、
『小学校通学区域制度の研究―区割の構造と計画』(多賀出版)、その他。

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