進路ナビニュース

「進路選択における『地域』というファクター」筆者・法政大学キャリアデザイン学部 教授 児美川孝一郎

高校生のための進路ナビニュース

沖縄県の教育委員会が主催する事業の一つに、
県内の高校から横断的に大学進学希望の生徒を募って、
高1・高2それぞれ30名ほどのチームを作り、事前学習等を積んだうえで、
東京や関西への研修旅行に出かけるという取り組みがある。
ここ数年、筆者のゼミでは、このイベントの東京研修旅行の受け入れを担当している。

先日も、高校2年生32名が勤務先の大学にやってきて、半日ほどを過ごしていった。
やっていることは、実は大したことではなく、
(1)入学センター訪問、(2)学食体験、(3)図書館等のキャンパス見学、
(4)「キャリアデザイン・はじめの一歩」というテーマの筆者の模擬授業を受けて、
グループワークを行うこと、(5)大学生(ゼミ生)との交流である。
とはいえ、(4)(5)に関しては、こちら側が刺激や気づきをもらうことも多い。
とりわけ(5)は、一種のピアサポート活動として、
ゼミ生にとって格好の体験と学習の場にもなっている。

県の教育委員会は、この事業を、
沖縄県の高校生の大学進学率と進学実績の向上を図るための
エンカレッジ事業であると位置づけている。
それはそれで、理解できないことではない。ただ、今年、
生徒の引率役として来られた県立高校の先生からは、次のような印象深い話も聞いた。
「県教委が、これだけお金をかけてやっている事業には、もちろん意義はあると思う。
高校時代に県外に出て行って、今日みたいな体験ができるのは、
その後の進路決定にも大きな刺激になるだろうし。でも、こういう機会を生かして、
高卒後に県外の大学に進学していった生徒は、
実は大学卒業後、沖縄にはほとんど戻って来ないんですよね。」

なるほど。こう言われると、合点がいくこともあった。
模擬授業や大学生との交流の際の高校生の発言や質問などを注意深く聞いていると、
彼ら彼女らにとっての進路選択とは、
実はそのうちに「地域選択」(自分はどこで学び、どこで働き、生活するのか)を含んでいて、
しかも、その比重はかなり大きいということが、ひしひしと感じられた。
だから、おそらくその選択は、東京近郊に住んでいる高校生などとは、
ちょっと違った感覚のものになるのだろう。

キャリアデザインや進路選択における「地域」という視点は、
研究的にももっと焦点が当てられるべきテーマであるように思う。

【プロフィール】
教育学研究者。
1996年から法政大学に勤務。
2007年キャリアデザイン学部教授(現職)。
日本キャリアデザイン学会理事。
著書に、『高校教育の新しいかたち』(泉文堂)、
『キャリア教育のウソ』(ちくまプリマー新書)、
『夢があふれる社会に希望はあるか』(ベスト新書)等がある。

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