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「『液状化』する公教育と進路?」筆者・法政大学キャリアデザイン学部 教授 児美川孝一郎

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今年の夏、教育学関連のいくつかの学会大会に参加したが、
いずれの学会においても、シンポジウムや課題研究などの場において、
公教育制度の変容、揺らぎ、再編、「外延」の拡張などが
共通のテーマとして取り上げられていたことにやや驚いた。
いや、教育機会確保法(2016年)以降の公教育の現状を踏まえ、
夜間中学の増設、広域通信制高校の隆盛、GIGAスクール構想以降の民間教育産業の公教育への参入、
経済産業省による「未来の教室」事業などの展開を見れば、
ここ数年における公教育の世界の変貌はすさまじく、
各学会がそれを研究テーマに据えたことは、驚くに値しないことなのかもしれない。

社会学者のバウマンは、現代社会の特徴を明確に「リキッド・モダニティ」と捉えた。
要するに、近代社会が確立したさまざまな制度が揺らぎ、
液状化していくことこそが、現代社会の特徴であるとしたのである。
バウマンの潜みにならって言えば、現在の公教育制度は、まさに液状化を開始しているのかもしれない。
そう考えて、大学における就職・キャリア支援の現場を見ると、
確かに、かつての「新卒就職」を支えていた仕組みは、ガラガラと崩れはじめている。
かつては経団連が、現在は政府が推奨している新卒採用の「解禁日」等のガイドラインなどは、
かなり前から有名無実化しているし、
そもそも新卒採用のチャンネルは、相当な程度にまで多チャンネル化している。

こうした多チャンネル化を見据えた学生支援を、現在の大学ができているのかと問われれば、
実は、はなはだ心許ない。
新学期が始まる前に、なんだか重たい課題を受け取ってしまったような心境であった。

【プロフィール】
教育学研究者。
1996年から法政大学に勤務。
2007年キャリアデザイン学部教授(現職)。
日本キャリアデザイン学会理事。
著書に、『高校教育の新しいかたち』(泉文堂)、
『キャリア教育のウソ』(ちくまプリマー新書)、
『夢があふれる社会に希望はあるか』(ベスト新書)等がある。

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