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「自治体の『公共施設管理計画』と学校施設」筆者・葉養正明

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「公共施設管理計画」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。
平成26年4月、総務省から「公共施設等の総合的かつ計画的な管理の推進について」
と題する策定要請が出されたことで全国自治体(都道府県、市区町村)に広がった計画である。
総務大臣による説明には、次のように書かれる。

「我が国においては、公共施設等の老朽化対策が大きな課題となっております。
地方公共団体においては、厳しい財政状況が続く中で、今後、人口減少等により
公共施設等の利用需要が変化していくことが予想されることを踏まえ、
早急に公共施設等の全体の状況を把握し、長期的な視点をもって、
更新・統廃合・長寿命化などを計画的に行うことにより、財政負担を軽減・平準化するとともに、
公共施設等の最適な配置を実現することが必要となっています。
また、このように公共施設等を総合的かつ計画的に管理することは、
地域社会の実情にあった将来のまちづくりを進める上で不可欠であるとともに、
昨今推進されている国土強靱化(ナショナル・レジリエンス) にも資するものです。」

全国自治体への普及状況については、毎年総務省の調査結果が公にされているが、
現在ほぼすべての自治体で策定済みと考えて良いようである。
北海道夕張市など自治体の倒産が現実のものになり、地方財政の収支見通しや
既存公共施設の統合、再編などについての関心が一挙に高まったことを背景にしている。

ところで、なぜこのテーマを取り上げるか。
言うまでもなく、それは「公共施設」の中には学校も含まれ、
「管理計画」が都道府県、政令指定都市、市町村すべてを対象に発出されているからである。
某自治体の「公共施設管理計画」を見てみよう。
そこには「公共施設の用途別床面積」が円グラフで示され、
小中学校は合計で約30%を占めるとされる。
他の事例を見ると、この自治体の学校余裕面積は小さいほうで、
60%に達するという自治体も見られる。
自治体とりまとめとしては、次のような文言が現れる。

・公共施設543施設(総延床面積約46万平方メートル)を今後も保有し続ける場合、
公共施設の更新(大規模改修・建替え)に必要となる将来コストは
約1,834.3億円/40年であり、年平均で約45.9億円と推計されます。
・平成31年の普通建設事業費(インフラを除く)の
見通し額である約16.2億円/年と比較すると、約29.7億円/年が不足することになります。
・施設用途別の更新費用は、小学校が最も多く約9.7億円/年、次いで公営住宅が約7.2億円/年、
中学校が約5.8億円/年、観光施設が約4.1億円/年、集会施設が約3.4億円/年となっています。

つまり、学校数も圧縮をはからずしては
40年間に必要な公共施設建て替え経費約1,800億円をまかなえないとしている。
公共施設再編を進めるのに、なぜ保有面積を基礎にして算定するか、という疑問はあるが、
少子化、就学人口の減少の流れの中で、
自治体それぞれの学校数圧縮は不可避ではないかと問いかけている文章とも読める。

【プロフィール】
教育政策論、教育社会学専攻。
大学教員として46年間過ごし、現在は東京学芸大名誉教授、
国立教育政策研究所名誉所員。
少子化・人口減少、大震災や戦乱などの社会変動のもとにおける
学校システムのあり方などを主テーマにしている。
近刊論文は、「縮小社会における学び拠点の脱構築とレジリエンス
―東日本大震災後の宮古市の小中学校の社会的費用に関連して」
(『淑徳大学人文学部研究論集第8号』2023年3月)。
単著は、『人口減少社会の公立小中学校の設計
―東日本大震災からの教育復興の技術』(協同出版)、
『小学校通学区域制度の研究―区割の構造と計画』(多賀出版)、その他。

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