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「キャリア教育の『個別最適化』?」筆者・法政大学キャリアデザイン学部 教授 児美川孝一郎

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先日の授業では、いま最先端の話題である、
「Society5.0に向けた教育改革」についての話をして、
教科教育のためのAI型ドリルについても触れた。
勢い余ってというか、筆者自身も非常に興味があったので、
クリッカー(選択肢を用意して問いを出すと、瞬時にして回答結果が示されるツール)
をしかけて学生たちに、以下のような問いを出してみた。
――「教科学習については、教師が一斉授業をするよりも、
 AIドリルに任せたほうが、個別最適化した効果が得られるか?」
用意した選択肢は、YesとNoのみである。結果は、なんとYesの回答が83%にのぼった。
正直、想定外に多くて、驚いた。
要するに、少なくとも教科教育に関しては、教師は要らない
(AI型ドリルに取り組む子どもを傍らで励ます役割に徹していればいい)というわけ?

ただ、冷静に考えてみれば、今どきの学生たちは、学校の授業はともかくとしても、
学習塾や予備校に関しては、個別学習(指導)を当たり前のこととして過ごしてきた世代である。
そんな彼/彼女らからすれば、あの「忌まわしき」「退屈な」一斉授業なんて、
もう「こりごりだ」ということなのかもしれない。
実際、筆者の授業を受けていた学生の多くは、
そうして個別化された学習(指導)を通じて入試を乗り越え、
大学での授業を受けるに至っているのであろう。
「AI型ドリルで何が悪いのか?」という感覚なのかもしれない。

筆者も、いちおう教育学の研究者なので、
教科教育は本当にそれでいいのかという点については、一言も二言も申し述べたいことがある。
ただ、ここでは、やめておく。
それよりも先に考えておきたいのは、学生たちの「個別化」モードが、
ここまで浸透してきたということの影響は、実は、教育教育にとどまるものではないという点である。
それは、今後のキャリア教育のあり方にも陰影を投じていよう。
AIを活用したキャリア情報の探索や収集、バーチャル空間でのインターンシップ、
AI型キャリアカウンセラーによる個別相談などは、隆盛を極める一方で、
生身の人間が集まって、対面で行われる体験学習やカウンセリングなどは、
微妙に疎んじられ、面倒くさがられる。
こんな未来が到来するのだとしたら、それってどうなのだろう?

【プロフィール】
教育学研究者。
1996年から法政大学に勤務。
2007年キャリアデザイン学部教授(現職)。
日本キャリアデザイン学会理事。
著書に、『高校教育の新しいかたち』(泉文堂)、
『キャリア教育のウソ』(ちくまプリマー新書)、
『夢があふれる社会に希望はあるか』(ベスト新書)等がある。

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