進路ナビニュース

「高卒求人・高卒就職支援シリーズ(10)視野を広げて内定へ―入社動機を聞いてみたら―」筆者・小林英明

高校生のための進路ナビニュース

学校で就職指導をしていた時、求人の学校訪問に若い方が見えると
「どうして今の会社に就職しようと思われたのですか」と時々尋ねていた。
いわば「志望の動機」を聞くのである。
するとご自身がその仕事(正確に言えばその方の今の仕事は人事、採用なので、
その業種、業界というべきか)に感じている魅力を話してくださることが多い。
単刀直入に「今の仕事の魅力は何ですか」と聞くよりも本音に近い答えが得られる。
この時の情報を生徒への業種紹介に利用して希望職種の選択肢を増やそうというわけである。
ある時、害虫駆除会社の方が学校に求人にいらした。
この業界からは初めての訪問だったので害虫防除の仕組みや方法、
仕事の内容や薬品、作業の安全対策等私もいろいろと学ぶことができた。
本来の話が終わったところで例の質問をぶつけてみた。
すると、とても興味深い答えが返ってきた。以下はその要旨である。

就活を始めた時には「人の暮らし」に興味があり、
特に暮らしの場としての「住環境」にかかわりたいと思っていた。
そこで住宅メーカーや住宅販売会社、不動産関連などを目標に就活をしていた。しかし、
なかなか内定が得られず希望業種の変更も考えたが、
諦めたくないので、改めて「人と住居のつながり」を考えてみた。
すると、今まで「より良い暮らしの場を作って提供する」ところばかり見ていたことに気づき、
「作る」「売る」以外に「リフォーム」や「修繕」、さらには損保業界も調べる中で、
「住宅を守る(護る)」仕事としての害虫防除の存在を知った。
人々の大切な「我が家」をさまざまな原因による「損壊」から護ることも
住居にかかわる仕事であり、しかも「虫害」は人の力で防ぐことができる被害なので、
やりがいもあると考えて説明を聞いたところからご縁ができた。

以上が彼女(その人は女性だった)の話の要旨である。
その話の後で私はつい「虫は大丈夫なのですか」と尋ねてしまった。
「好きというわけではないが、絶対に嫌いでもないし、
研究職や技術職と違い、いつも虫と付き合うわけではないので大丈夫です」
との答えだった。
大丈夫だから入社されたのにつまらない質問をしてしまったのは、
私に「女性は虫が……」という固定概念があったからだと、
あとで反省した。しかし、私自身も大人になってから虫はあまり「得意」ではないので、
きっと男性でも尋ねただろう。

さて、話を元に戻すが、彼女は住宅を「作って売る商品」から
「護るべき財産」として捉え、新たな業種が視野に入った。
大学生の彼女は自ら「住宅」に対する見方を変え、視野を広げることができた。しかし、
「業種」より「職種」から就活を始めることの多い高校生には、
自ら見方を変えて視野を広げるのは難しいかも知れない。
周囲が柔軟な見方や考え方を心がけ、生徒が視野を広げられる支援が必要であろう。

【プロフィール】
元都立高校進路指導主任・
多摩地区高等学校進路指導協議会事務局参与/キャリア教育支援協議会 顧問
1976年より都立高校教員。
2004年より都立拝島高校勤務、
2010年より進路指導主任として主に就職指導に当たる。
2019年3月定年退職。

TOP