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「人口研推計の波紋と人口減のなかの離島・へき地等の教育の未来(その3)」筆者・葉養正明

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これまで2回にわたり、少子化・人口減少下の離島・へき地等における、
教育拠点の持続について考察を加えてきた。
本稿の問題意識は、「学校の適正規模」という量的基準を優先させ、
少子化人口減少下の教育拠点を考えることのふさわしさである。
義務教育段階を取り上げ現行制度を見ると以下のようになっている。
市区町村に設置される小中学校は「12~18学級」を標準とし、
「学校の適正規模」論が行き渡る背景になっている。
学校教育法施行規則の規定である。
「ただし、地域の実態その他により特別の事情のあるときは、この限りではない」
という附則もあるが、自治体教育委員会が小中学校を見つめる視線は、
この「標準」に縛られていることが多い。
少子化を背景に子ども数が長期的に減少をし続ける状況下では、
「規模の標準」に拘泥する限り、学校数圧縮、
つまり学校統廃合は全国自治体の行政ターゲットになり続ける。
「消える学校」現象の発生である。

そこで、少子化人口減が激しい離島・へき地等の教育の未来をどう描くか、
という問題が登場するが、その場合、少子化・人口減少は悪、社会の難局と見なすことも、
量的基準への拘泥ではないか、という反論も聞こえてきそうである。
「縮小社会研究会」に所属するある研究者の次のコメントを見つめてみよう。
(地球上の人口の規模は)「根本的には人口を持続可能な人数まで下げていくことが必要です。
日本は少子化問題が言われていますが、どうして少子化を止めるかではなく、
どうして混乱を避けながら少子化を進めることこそが課題です。
持続可能な人口がどれだけかは専門家の研究に任せるとして、
日本でいえば、江戸時代後期の3000万人などが考えられると思います」
人間の住む地球はすでに飽和状態になり、
100億人に達しようとする世界には、人口減こそ重要、という指摘である。
我が国にしてもそれは同じで、1億1千万人の日本列島はもはや飽和状態で、
少子化人口減少を社会衰退としてとらえるのではなく、
地球持続の観点に立ってどう舵取りし人々の暮らしの豊かさにつなげることこそ大事、と主張する。

このように考えてくると、以前本コーナーで取り上げた、
ジェリー・Z・ミュラー著『測りすぎ』(松本裕訳、みすず書房、2019年)が思い起こされる。
同書(翻訳)は全体で189ページのコンパクトな書物であるが、論旨は極めて明快である。
社会に広がる「測定基準への執着」に警鐘を鳴らしている書物である。
この概念の主要素を次の3点としている。
・個人的経験と才能に基づいて行われる判断を、
 標準化されたデータ(測定基準)に基づく相対的実績という
 数値指標に置き換えるのが可能であり、望ましいという信念。
・そのような測定基準を公開する(透明化する)ことで、組織が実際に
 その目的を達成していると保証できる(説明責任を果たしている)のだという信念
・それらの組織に属する人々への最善の動機付けは、
 測定実績に報酬や懲罰を紐付けることであり、
 報酬は金銭(能力給)または評判(ランキング)であるという信念
少子化で「小さな学校」が激増し、学校には適正規模があるという信念を頑なに抱き、
小さな学校の消滅、学校統廃合に進むのも、
ある種の「測定執着」の罠に陥っていると言えないか。
人々の安寧に満ちた暮らしのなかにある学校(学びの拠点)の重要性に鑑み、
小さくなれば小さくなったで、それを生かし切る教育や学習の形態を
考えることこそが焦点になるべきで、
学校デジタル化をどう生かすかも問われているのかもしれない。 

【プロフィール】
教育政策論、教育社会学専攻。
大学教員として46年間過ごし、現在は東京学芸大名誉教授、
国立教育政策研究所名誉所員。
少子化・人口減少、大震災や戦乱などの社会変動のもとにおける
学校システムのあり方などを主テーマにしている。
近刊論文は、「縮小社会における学び拠点の脱構築とレジリエンス
―東日本大震災後の宮古市の小中学校の社会的費用に関連して」
(『淑徳大学人文学部研究論集第8号』2023年3月)。
単著は、『人口減少社会の公立小中学校の設計
―東日本大震災からの教育復興の技術』(協同出版)、
『小学校通学区域制度の研究―区割の構造と計画』(多賀出版)、その他。

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