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「高校の教師には見えていたのか?」筆者・法政大学キャリアデザイン学部 教授 児美川孝一郎

高校生のための進路ナビニュース

筆者の周辺では、東大の学生団体が実施した調査の結果が、ちょっとした話題になっている。
「なぜ、地方の女子学生は東京大学を目指さないのか(2023年度調査結果)」
と題された調査報告は、そのタイトルからは、
いささかキャッチーなところをねらったという印象は拭えない。しかし、
調査対象の選定やサンプル数など、調査そのものの設計はしっかりしている。
しかも、調査結果には、研究的な意味でも重要な知見が含まれているように思われる。

ごく簡単に、調査結果の注目すべき点を紹介しておこう。
この調査では、全国の高校から、偏差値が高く、
東大合格者を例年5名以上出しているという条件のもとに100校弱の高校を選定し、
その高校に在籍する2年生3,800人弱を調査対象とした。
そして、対象者を、首都圏在住か地方在住か、男子か女子か、
という2軸からなる4つのグループに分類し、
彼ら彼女らの進学意識や将来展望についての質問に対する回答を分析した。
その結果、地方在住の女子には、他の3つのグループと比べて、
以下のような顕著な特徴が見られたのである。

――「地方・女子」は、
(1)高偏差値の大学をめざすよりも、資格取得を重視する、
(2)受験では、浪人を避けようとし、合格可能性を重視する、
(3)保護者の進学期待はそれほど高くなく、本人の自己評価も高くない。
これらの背景には、身近にロールモデルがいないこと、
親には「女子は地元で」といった意識が強いことなどがある。

率直に言えば、まったく予想もしなかった結果というわけではない。しかし、
かなりの高偏差値の進学校に限定しても、
これだけくっきりとした差が出るのかという点については、正直驚かされた。
気になったのは、調査対象となった高校、とりわけ地方の高校の教師たちには、
この調査結果が示すような現実が見えていたのだろうかという点である。
「うすうすは感じていた」かもしれない。しかし、では、
何らかの対応や働きかけなどをしてきたのか。
おそらく、この点ははなはだ心許ないのではないか。
もちろん、最終的に進路を選択し、決定するのは、本人である。しかし、
実は本人の選択でも責任でもないところで、
「地方・女子」たちの選択肢そのものが狭められているのだとすれば、
それは当然、放置しておいてよいことではなかろう。

【プロフィール】
教育学研究者。
1996年から法政大学に勤務。
2007年キャリアデザイン学部教授(現職)。
日本キャリアデザイン学会理事。
著書に、『高校教育の新しいかたち』(泉文堂)、
『キャリア教育のウソ』(ちくまプリマー新書)、
『夢があふれる社会に希望はあるか』(ベスト新書)等がある。

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