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「人口研推計の波紋と人口減のなかの離島・へき地等の教育の未来(その2)」筆者・葉養正明

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今回は前回(※)に続き、
「人口減のなかの離島・へき地等の教育の未来」について考察を進める。
(※6/20掲載(その1)https://shinronavi.com/news/detail/1714)
ところで、前回は、我が国における中長期的な出生率や人口動態の予測
(国立社会保障・人口問題研究所による)をベースにしているが、
今回の出発点として今ひとつ、人口学者による推計を見ることにしよう。
2005年に出版された大淵寛・兼清弘之編著
『人口学ライブラリー2 少子化の社会経済学』(原書房)によると、次のような記載がある。
「社人研推計によれば、年少(0~14歳)人口は、少子化に伴う出生数の絶対的減少により、
1980年代初めの2700万人規模から一様に減少を続けてきた。
2000年時点の年少人口は1851万人であったが、
中位推計においても緩やかな長期的な減少過程は変わらず、
2050年にはおよそ1084万人、2058年には1000万人を切ると予測される。
このように、年少人口も今世紀中に半減することになる。」
以上のような人口動態が予測されるために
政府は少子化対策に懸命に取り組んでいるわけであるが、
どのような対策が打ち出されても数十年は、
年少人口や総人口の落ち込みが続く、という所説が重要になる。
つまり、「人口減少モメンタム」の概念に着目することの重要性である。

では、そもそも「人口モメンタム」とは何か。
ここで、大正大学地域構想研究所の小峰隆夫の論説を引き合いに出すと
(小峰隆夫:合計特殊出生率と人口減少のモメンタム、『地域人』83号、2022年)、
直近数十年間の人口動態について次のように語られる。
「出生率の低下を受けて、私たちがまず真剣に考えなければならないのは、
今後数十年のことではないか。
ここで重要になるのが「人口減少のモメンタム」ということだ。
多くの人は、出生率が人口の増減を左右すると考えがちだ。
非常に長い期間を考えればそれは正しい。しかし、
これを数十年程度の期間で考えると必ずしもそうはならない。
人口の増減に影響するのは、出生率ではなく死亡数と比較した出生数である。
その出生数は、出産可能な女性の数と出生率によって決まる。
すると、出生率が変化しても、それが出生数に影響するまでには、
タイムラグが生ずる。これがモメンタムである。」
つまり、現在の政府の「少子化対策」が効果を上げたとしても、
少なくとも数十年間の人口減少は継続する、ということである。
年少人口も同様である。

文科省は「学校の適正規模・適正配置の手引き」を作成し、
小中学校については12~18学級が標準としている。
全国自治体もそれを目途に検討を進めているが、これから数十年の年少人口の落ち込みに抗し、
どう義務教育の場や機会を保持するかが問われている。
適正規模を維持することを至上命題と考える限り、通学距離の伸延は避けられない。
小学校4キロ、中学校6キロという通学距離の上限を優に超える地域の頻出の懸念である。
そこで、考えられるのは、一つは学校のデジタル化、今ひとつは学校施設の複合化などである。
では、それらの方策はどのような学校像を結ぶことになるか。
次回はこの問題を焦点に考察することにしよう。

【プロフィール】
教育政策論、教育社会学専攻。
大学教員として46年間過ごし、現在は東京学芸大名誉教授、
国立教育政策研究所名誉所員。
少子化・人口減少、大震災や戦乱などの社会変動のもとにおける
学校システムのあり方などを主テーマにしている。
近刊論文は、「縮小社会における学び拠点の脱構築とレジリエンス
―東日本大震災後の宮古市の小中学校の社会的費用に関連して」
(『淑徳大学人文学部研究論集第8号』2023年3月)。
単著は、『人口減少社会の公立小中学校の設計
―東日本大震災からの教育復興の技術』(協同出版)、
『小学校通学区域制度の研究―区割の構造と計画』(多賀出版)、その他。

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