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「今どきの教職志望の学生気質?」筆者・法政大学キャリアデザイン学部 教授 児美川孝一郎

高校生のための進路ナビニュース

ゼミの4年生には、この夏、教員採用試験を受ける予定の学生が3名いる。
勤務先は、教員養成系ではないので、3名という数は、例年になく多い。しかし、なぜ?
「ブラック職場」「定額働かせ放題」といった言葉が、ネット上を中心に世間を賑わせている昨今、
それでも、学生たちが卒業後の進路として教職を選ぼうとする理由や動機は、
どこにあるのだろうか。

ゼミ生の3名に限って言えば、彼/彼女らは、学校現場の「現実」を知らないわけではない。
出身校の教員と今でもつながっていたり、
部活動の指導で、週に何度も学校に出かけていたりする。
だから、現職の教師との接点があり、情報も入っている。
中には、現役の教師から、「考え直したほうがいいんじゃないの?」と言われた者すらいる。
それでも、ゼミ生たちの決意は揺るがない。
それぞれで理由や重点は異なるかもしれないが、
条件付きではなく純粋に、教師という職業に魅力を感じ、
教師の仕事に意義を見いだし、そこに賭けようとしているからである。

そんな彼/彼女らと話しながら、いつも「何だかねえ」と呆れているのが、
このところ、なり振り構わず、
教員採用試験に関する「奇策」を繰り出しはじめた各県の教育委員会の動向である。
教員不足を背景に、人材確保に奔走する教育委員会が、
大学3年次での教員採用試験の受験、教員免許なしでの受験
(免許取得まで配置を猶予、あるいは特別免許状を発行)、
試験科目の削減・再編、試験時期や会場の変更といった施策を、
雪崩を打ったように実施しはじめたのである。
背に腹はかえられぬ事情はあるのだろうが、それにしても、である。
こんな「付け焼き刃」に頼る前に、本来、もっとやるべきことはなかったか。
「学校における働き方改革」の必要性が指摘されてから、ずいぶん時間が経つ。
この間、学校現場は、少しでも教師にとって働きやすい職場になったのだろうか。
学校は、学生たちが安心して志望することのできる職場になったのだろうか。
こうした根本的、抜本的な改革の課題には目も向けず、
数合わせのためだけに、教員採用試験の「規制緩和」で乗りきろうとするのは、
あまりに近視眼的な対応である。

こんなご時世でも教職をめざそうという学生の「心意気」と、
教育行政の対応の「お粗末さ」のギャップには、思わずため息が出てしまう。

【プロフィール】
教育学研究者。
1996年から法政大学に勤務。
2007年キャリアデザイン学部教授(現職)。
日本キャリアデザイン学会理事。
著書に、『高校教育の新しいかたち』(泉文堂)、
『キャリア教育のウソ』(ちくまプリマー新書)、
『夢があふれる社会に希望はあるか』(ベスト新書)等がある。

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