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「人口研推計の波紋と人口減のなかの離島・へき地等の教育の未来(その1)」筆者・葉養正明

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国立社会保障・人口問題研究所のプレス発表、
「日本の将来推計人口(令和5年推計)」が波紋を呼んでいる。
政府の少子化対策は審議が佳境にさしかかっているが、
「総人口は50年後に現在の7割に減少し、65歳以上人口はおよそ4割を占める」
という推計結果の提示である。
もっとも、政府の少子化対策で将来人口が改善するかどうかは未知数である。

なお、公表された推計の主要な結果は次の3項目にまとめられる。
(1)前回推計(平成29年度)と比べ合計特殊出生率は低下、
 平均寿命はわずかな伸び、外国人入国超過数は増加
(2)総人口は50年後に現在の7割に減少、
 65歳以上人口はおよそ4割に(出生中位・死亡中位推計)
(3)出生高位および低位の仮定による推計ならびに日本人人口に限定した場合の推計

「推計」は「2020年の実績値」に基づいており、
出生3仮定、死亡3仮定の組み合わせなど、一定の仮定に基づいている。
そこで、政府の少子化対策の効果の出現など、
これまでの実績値を覆す要因が加わった場合には、
「推計」は大幅に狂うこともある。しかし、
中長期的な未来を想定して教育や社会の設計を考える場合には、
「目安」は必要で、「推計」には一定の意義がある、という論者も少なくはない。

ところで、このたびの「推計」で注意すべき点は、
人口研が推計概要として示しているのは日本の総人口の推計結果で、
地域差には言及していない、という点である(分析はされている)。
つまり、人口研の推計は、都市と地方との大きな落差を想定しながら、
約1720程度の市区町村の平均値に言及している、ということである。
少子化・人口減、それに伴う学校の小規模化は、離島やへき地、中山間地ほど深刻で、
その歯止めの術があるかどうかも不確かである。
なお、それが離島・へき地等の苦難にとどまらないというのは、
義務教育段階では国費依存が高いことに背景がある。
学校適正規模の基準を下げることで、
離島・へき地等には小規模校の残存の可能性が生まれるが、
大都市の小規模校でもそれは同じである。
小規模校の持続にとっては朗報であるが、1校あたりの子ども数減少を活用し、
あるいは補い小規模校の「魅力」を生み出す知恵が問われる。
過度の義務教育費の膨張を抑制する術とともに、
新たな「学習拠点」創造による公教育の再構築、
学びネットワークの再生に向けての術を生み出す課題の浮上である。

少子化・人口減に随伴する高齢化は、都市、郡部両者にとって等しく難題で、
高齢者対応施設や福祉関係施設等の不足、新増設への需要の拡大は、
自治体に配分されてきた資金(地方交付税等)の配分問題も浮き上がらせる。
これまでは、地方交付税の不交付対象団体となっても
(不交付団体は東京都等全国自治体のうち73)、
たとえば東京都などの財政は余裕があった、と言ってよかった。しかし、
その東京都でも高校再編の一環としての高校統廃合が進行している。
小中学校についても同様である。
行政サイドからは、財政難を理由にした公共施設管理計画の一環としての、
学校数圧縮がしばしば語られる。
離島・へき地等における「学習拠点」の統廃合や消滅の問題は、
将来の我が国の社会計画の設計問題という側面も持っており、
それにどう迫るかに我々は直面している。
今後数回にわたり、人口研が示した2030、2050年度の人口推計を切り口に、
学校設置形態のあり方を含め、学校の地域社会的意義や持続問題について考えてみることにしたい。

【プロフィール】
教育政策論、教育社会学専攻。
大学教員として46年間過ごし、現在は東京学芸大名誉教授、
国立教育政策研究所名誉所員。
少子化・人口減少、大震災や戦乱などの社会変動のもとにおける
学校システムのあり方などを主テーマにしている。
近刊論文は、「縮小社会における学び拠点の脱構築とレジリエンス
―東日本大震災後の宮古市の小中学校の社会的費用に関連して」
(『淑徳大学人文学部研究論集第8号』2023年3月)。
単著は、『人口減少社会の公立小中学校の設計
―東日本大震災からの教育復興の技術』(協同出版)、
『小学校通学区域制度の研究―区割の構造と計画』(多賀出版)、その他。

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