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「生成型AIは何を変えるのか?」筆者・法政大学キャリアデザイン学部 教授 児美川孝一郎

高校生のための進路ナビニュース

新年度を迎えて、目下、同僚の教員のあいだで話題沸騰となっているのは、
今をときめくChatGPT等の生成型AIの「実力」である。
ご多分に漏れず、学生がこれを使って、
課題レポート等を書いてきたらどうしようといった心配、
あるいは戸惑いが、話題の中心である。
試しに筆者も、自分の講義科目に関する内容をChatGPTにいろいろ聞いてみた。
まだ情報の正確さには欠けると思ったが、
論理的に、いっぱしの文章を書いてくるのは間違いない。
しかも、チャット形式なので、対話の中でこちらが必要な情報等を与えていくと、
AIが書いてくる内容の精度も、どんどん上がってくる。

正直、手強いかもしれないと思う。
今はまだ、「こんな馬鹿なことを書いてきて」などと溜飲を下げていられるが、
先方の「進化」とレベルアップはあっという間なのだろう。
しかも、純粋に教育論として考えた時、
「教育現場では、生成型AIの使用はいっさい禁止する」
といった対応が適切であるとは思えない。
AIにレポートを代筆させるのは論外だとしても、
学生が自らレポートを作成する際に、情報収集のツールとして、
あるいは自らの考えを整理したり、点検する目的でAIを利用し、
それを使いこなすといったことは十分に考えうる。
その結果、これまでにない豊かな学びが実現しないとも限らない。

おそらく、生成型AIは、就職活動の場面でも使われるようになるだろう。
少し前、企業向けに、
学生が書いたエントリーシートを評価するAIが開発されて話題となったが、
今後は、学生側がAIに書かせたESの内容をめぐって、
企業側の評価AIとの「対決」が起きてくるのだろうか。
そうしたAI対決は少々戯画的かもしれないが、筆者が気になっているのは、
学生たちが、業界研究や企業研究のツールとして、
さらには自らの進路選択や意思決定の支援ツールとしても
AIを使い始めるだろうという点である。
一瞬にして、さまざまなデータや情報を得ることができるのは、
高度に発展した情報化社会の恩恵なのかもしれない。しかし、
「ネットではなく、肌感覚でつかめる情報こそを」
などと口酸っぱく説いてきた世代からすると、
その「恩恵」とは、はたして何ものなのかとも思ってしまう。

【プロフィール】
教育学研究者。
1996年から法政大学に勤務。
2007年キャリアデザイン学部教授(現職)。
日本キャリアデザイン学会理事。
著書に、『高校教育の新しいかたち』(泉文堂)、
『キャリア教育のウソ』(ちくまプリマー新書)、
『夢があふれる社会に希望はあるか』(ベスト新書)等がある。

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