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「学生の教職志望は低下したか?」筆者・葉養正明

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「先生」にまつわる話題はつきない。
子どもへのまなざし、声のかけ方、先生のさりげないふるまい、
子ども同士のけんかやぶつかり合いから、
体罰、セクハラ・パワハラなどの「事件」に至るまで、
先生に関係する話題は多種多様である。
子どもが育つ社会の環境は大きく変化してきた。
それゆえ「若者の教職意識が変化してももっともだ」と
世間が感じ取ったとしても不思議はない。
そうしたなか、先生の勤務の多様化・複雑化や加重負担などに着目し、
「働き方改革」を進め、応分の手当保障にも心配りしようという改革も進められる。

ところで、筆者は、片田舎を出て大学に入学し教育学科に籍を置いてはや55年。
キャンパスでは「教育の総本山」という言葉がしばしば聞かれ、
第二次日米安保条約の改訂を巡る激しい学園紛争はあったものの、
「教育は社会の未来」というメッセージに酔いしれるゆとりはあった。
その後9年間の学生生活を経て大学の教職課程を担当することになるが、
以来はやくも46年が経過した。
半世紀の勤務は悪戦苦闘の連続と言ってよかったが、
「教育への夢」を抱く若者たちに囲まれ、
また学校現場で悪戦苦闘する先生方を目にしながら、
どうすれば新米教師から脱することができるかが毎日の課題になってきた。しかし、
その行き着く先の今日は、教員採用試験の競争率低下を憂い、
教職志望の衰弱に疑念を抱く社会意識のなかにある。
政府から処方箋として語られるのは、
教職制度、「教育」の抜本的な見直し、という声高な改革論である。
では、「教育は社会の未来」というテーゼは消え失せたのか。
一人ひとりを生かす教育、一人はみんなのために、みんなはひとりのために、
という言い古された教育理想は、塾・予備校等を含む民間資本に委ねるしかないのか。

50年前に競争率35倍の教育学科の門をくぐり抜け「教育」を専攻することになったが、
同級生に学科への違和感や
「教育」を専攻することになった落胆が広がっていたかといえば、
そうでもなかったように思う。
一年次に教育学初歩を学び始め、
「教育は社会の未来」という「夢」の探求に踏み出したのだ、
という充実感が漂っていたことを思い出す。
もっとも、地方出身者が多い大学で、
家族との関係でUターンするものと思い込んでいる友人もいて、
「教職」への道が宿命になっていることに
苦悶するものもいないわけではなかった。しかし、それは今日でも同じである。
18歳人口の減少や大学数の急増などをうけ、今日では大学の受験倍率はさがり、
教職課程がマスプロ化しているという面はあるのかもしれない。しかし、
若者は先生と対面し、その教えを経て今日を迎えている。
先生との出会いを暖め、
自らの行き先を「教職」と決めている学生に出会うこともけっして少ないとは言えない。
若者に「教育への夢」が抱かれなくなった、という疑念から出発し、
頭ごなしに「教職の魅力や使命感」を植え付ける「改革」探しに汲々とするのが道筋なのか。
教職を志す学生と対面し、
「学校はブラックですか」と真顔で問いかけてくる学生を見つめながら、
社会に広がる学校バッシングやその結末としての教育ポピュラリズムこそ、
「罪」を負うべきものではないか、と思うことしきりである。

【プロフィール】
教育政策論、教育社会学専攻。
大学教員として46年間過ごし、現在は東京学芸大名誉教授、国立教育政策研究所名誉所員。
少子化・人口減少、大震災や戦乱などの社会変動のもとにおける
学校システムのあり方などを主テーマにしている。
単著は、『人口減少社会の公立小中学校の設計
―東日本大震災からの教育復興の技術』(協同出版)、
『小学校通学区域制度の研究-区割の構造と計画』(多賀出版)、その他多数。

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