進路ナビニュース

「知徳体プラス」筆者・大阪国際中学校高等学校 橋本光央

高校生のための進路ナビニュース

学習指導要領には「生きる力」という理念があり、
それを「知・徳・体のバランスがとれた力」と定義しています。
具体的には、知は「基礎的な知識・技能を習得し、それらを活用して、
自ら考え、判断し、表現することにより、さまざまな問題に積極的に対応し、解決する力」、
徳は「自らを律しつつ、他人とともに協調し、
他人を思いやる心や感動する心などの豊かな人間性」、
体は「たくましく生きるための健康や体力など」を示しており、
それらの力をバランスよく育てることを表しています。 

ところで、旧五千円札の肖像画にもなった新渡戸稲造さんは明治39年から7年間、
一高(東大等の前身となった旧制高校)の校長をされていたのですが、
知徳体だけでは不十分だと考えておられたようです。
学生たちを前に、こんな話をされています。

「いままでの教育はmentalityすなわち知、moralityすなわち徳、vitalityすなわち体、
この三つに重点を置いてきたが、それだけでは個としての人間しかできない。
これに加えてsocietyすなわち社交的観念がなくては、全体としての人間は完成しない。
いかにすぐれた知徳体を有していても、実社会に適用するものでなければ価値がない。
口先のうまい人になれというのではない。
実社会で円満な活動のできる人間になってもらいたいのである」

これ、明治ですよ。明治39年の時点で、「知徳体だけでは人間は完成しない」と言っているのです。
それなのに、学習指導要領では「知徳体で生きる力を育む」と言っているだけです。
私は新渡戸さんの指摘されているとおり、
「実社会に適用するものでなければ価値がない」が正しいと思います。

では、「実社会で円満な活動のできる」とは何でしょう。
それは、真摯さであり、コミュニケーション力であり、論理的に考え答えを導き出す力であり、
責任ある決断ができる力であり、それを実行する力だと思います。
これは、よく言われる「リーダーの条件」と同じですが、
学校教育でもこれらの力を育まなければ。そのためには……。

新渡戸さんは『武士道』という名著を残しています。簡単に内容の一部を紹介します。

『「義」とは正義の道理のこと。
「勇」とは正しいことをすることで、義を果たすことを勇と呼ぶ。
そんな勇が高みに達すると「仁」になる。
仁とは他者への優しさであり、「礼」とは他人への思いやりである。
そして真の人間は「誠」に対して非常に強い敬意を表し、「名誉」を重んじる。
名誉とは最高の善なのである』

答えはこの中にあるのではないでしょうか。

【プロフィール】
1989年より大阪北予備校に勤務、
2007年より大阪国際学園に勤務。
橋本喬木・天野大空のペンネームにてショートショートを執筆、
星新一公式サイト・寄せ書きに「星先生の発想法」が掲載されました。
星新一公式サイト「星先生の発想法」

TOP