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「『無学校村』を回避する術(すべ)」筆者・葉養正明

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「無医村」問題が出現するのは1920年代後半以降に遡る。
なお、「無医村」とは、「開業医が常住していない町村はもちろん、
開業医が常住していても、地形や交通の不便さにより、
一部の住民しか医療を享受できない町村をも含む」(藤野豊)とされる。
「無医村」の歴史を辿ると約100年に及ぶ。
今日では「無医村」は日常語になっているが、半面、「無学校村」という用語はまず登場しない。
一条校に限定したとしても、自治体内に幼稚園から大学までの「学校」が皆無、
という事態は考えがたいからである。

ところで、「学校」のなかで、もっとも一般的に設置されるのは、義務教育の学校である。
そこで、以下「無学校村」について考察するため、
「小中学校が皆無になった村」の出現について考えるにしよう。
その手がかりとして、全国約1750の市区町村(2009年5月1783、2022年5月1724)
で小中学校がただ一つになった事例に注目する。

『全国学校総覧』(原書房)によると、
小学校1校の町村は、2009年度157(市区町村全体の8.8%)、2022年度157(同9.1%)である。
中学校については、09年度、22年度ともに
457(09年度同25.6%、22年度同26.5%)となっている。
ここで問題になるのは、学校単位の児童生徒数の変動であるが、
2009年度の指数を100とすると、2022年度の児童数は77.4、生徒数は78.7となる。
学校規模の実態を詳細に見ると、2009年度以降学校統廃合により、
児童生徒数が増加する事例やもともと児童生徒数が少ないことに加え、
その後落ち込みが発生する事例も見られ、ばらつきは大きい。

2009年度と2022年度間の子ども数の変動傾向が今後も同様に推移すると仮定すると、
09年度の小学校の子ども数指数(100)は、35年度には59.9、48年には46.4となる。
2009年度時点ですでに児童数が極端に少ない場合には、
学校存続の在り方を巡る対応策は深刻な課題にならざるを得ない。
中学校でも同様である。

平成27年1月、文科省は「公立小中学校の適正規模等に関する手引き」を発出している。
そこで12~18学級とうたわれる「学校の適正規模」の維持を前提にすると、
2009年度に極端に規模が小さい学校については、対応策はいくつかに限られる。
隣接町村に教育委託する場合、学校組合などを組織し学校教育の合同実施を推進する場合、
あるいは、町村合併を促進し学校設置区域の広域化を進める、などの場合である。

文科省は、中教審中間まとめ(令和2年10月)では、
以上に加えICT活用による遠隔教育をあげる。
その場合、遠隔教育等の導入を介した学校設置区域の広域化により、
表面的には「無学校村」出現を防げる面はあるが、
たとえば、郡や教育出張所ほどの大きさに学校設置区域を拡大した場合には、
一部地域には事実上の「無学校村」状態の発生する可能性がある。
子どもの通学圏域の限界を超える地域が出現するからである。
GIGAスクール構想前倒しによるバーチャルスクールの推進、
小中学校における寄宿舎制導入など、
「無学校村」出現を回避するための「術」の在り方に早急な検討が重要だ。

【プロフィール】
教育政策論、教育社会学専攻。
大学教員として46年間過ごし、現在は東京学芸大名誉教授、
国立教育政策研究所名誉所員。
少子化・人口減少、大震災や戦乱などの社会変動のもとにおける
学校システムのあり方などを主テーマにしている。
近刊論文は、「東日本大震災における宮古市の子どもの生活
・学習環境意識の変化とレジリエンス―縦断調査を通して」
(『災害文化研究』第6号、2022年5月)。
単著は、『人口減少社会の公立小中学校の設計
―東日本大震災からの教育復興の技術』(協同出版)など。

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