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「若者を『大人』扱いしない日本社会」筆者・法政大学キャリアデザイン学部教授 児美川孝一郎

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正月の2日、3日に行われた箱根駅伝は、
勤務先の大学が出場していたこともあって、ずっとテレビの前にかじりついていた。
どのチームの選手たちも懸命な走りを見せてくれ、多くの感動と勇気をもらった。
ただ、気になることもあった。

優勝チームの監督は、日ごろから選手のことを「子どもたち」と呼んでいるらしい。
この監督は、選手に伴走する運営管理車から、
「男だろ!」などと檄を飛ばすことでも知られているので、
ご本人のパーソナリティかもしれない。
もちろん筆者にも、監督ご本人のことを非難するつもりはない。
ただし、である。こうしたエピソードを、マスコミがこぞって取り上げ、
うるわしい師弟関係を示す美談であるかのように報じるのは、いかがなものなのか。
大学の駅伝の選手といえば、全員が立派な「成年者」であるはずなのに。

そんな「もやもや」を感じながら、9日は成人の日だった。
法律的には、すでに18歳成年が施行されているが、
報道によれば、ほとんどの自治体では、
「成人式」を「20歳のつどい」等に名称変更して、
20歳を対象とした式典を実施したという。
移行期の出来事としてならば、もちろん理解できることである。
ところが、どうもそうではないらしい。
多くの自治体は、今後とも20歳を対象とした祝典を続ける予定であるという。
なかには、そのことの賛否を問うアンケートを実施した自治体もあるが、
回答の多くは、対象年齢の若者からの回答も含めて、
18歳を対象とする式典の実施には反対の意向を示したらしい。

18歳選挙権や、18歳成年とは、いったい何だったのだろう。
制度変更のタテマエは、いろいろと語られたはずである。
しかし、ホンネでは、私たちの社会は、
若者をいつまでも「大人ではない状態」に留めおこうとしているのではないのか。
そのほうが、大人社会にとって都合がいいからである。
「そうはいっても、肝心の若者たちの意識が……」
などと言うのは、言い逃れでしかない。
私たちが、若者を本気で「大人扱い」しないでおいて、
彼ら彼女らにだけ大人としての「自覚」を求めるのは、どう考えても本末転倒であろう。

【プロフィール】
教育学研究者。
1996年から法政大学に勤務。
2007年キャリアデザイン学部教授(現職)。
日本キャリアデザイン学会理事。
著書に、『高校教育の新しいかたち』(泉文堂)、
『キャリア教育のウソ』(ちくまプリマー新書)、
『夢があふれる社会に希望はあるか』(ベスト新書)等がある。

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