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「少子化・人口減少下の高校統廃合と教育格差(その1)」筆者・葉養正明

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わが国の人口減少は2011年頃を起点に始まるとされるが、
合計特殊出生率の落ち込みはそれよりかなり以前に遡る。
第二次ベビーブーム期の1971~1974年には、
合計特殊出生率は2.14前後であったが、
その後落ち込みが始まり2005年には1.26の水準まで低下している。
その後やや持ち直す時期もあったが、
直近の2021年でも1.30の水準にとどまっている。

少子化の下で顕在化するようになったのは、学校統廃合、学校再編の動きであった。
学校段階としては小中学校統廃合から始まったが、
ここ数十年には高校に波及している。
公立高校総数を見ると、ピークは1990年で4182校であったが、
約20年後の2013年には3646校に下落している。
年25校、合計約500校の減少である。

学校統廃合はしばしば、「学校規模」という量的基準に準拠して進められるため、
児童生徒数減少が教育活動や教育成果にどう影響するか、
社会性育成の観点では規模の縮小にデメリットはないと言えるか、
臨界値はどこにあるか等を巡る議論が続いている。
半面、コミュニティ拠点としての学校、社会制度としての学校という観点から、
学校の消滅はどのような負の効果をもたらすか、という争論も続いてきた。
都市計画家、建築学者などには再編論に与する意見が少なくはないが、
財政学者による学校統廃合の財政効果分析を含め、
少子高齢化、人口減、さらには、「失われた30年(長期経済低迷)」のもとで、
学校の小規模化、将来配置をどう考えるかは極めて悩ましい課題である。

コミュニティ生態の側からは、
学校統廃合後の児童生徒の学びの持続をどう進めるか、
という難題が浮上する。
人口減少に伴い人の住む国土は都市部など中心に狭めていくと考えるなら、
学校規模という量的基準の維持と学校統廃合政策とがぶつかり合うことはない。
しかし、限界集落の大幅な拡大や消滅集落の増大については、
国土政策としての国民的議論が必要になる。
海外からの土地買収が相次ぐ事態に発展しないよう、
国土防衛政策との兼ね合いも出てくることが予測される。

こう考えてくると、基本的には、
居住人口密度が下落する国土像を念頭に、
「学びの拠点、ネットワーク」をどう持続するかを考えるのが道筋、
ということになろう。
その際課題になるのは、学校規模という量的基準の弾力化、
離島やへき地、中山間地を念頭に置いた量的基準のあり方、
それと連動した教育形態の開発の問題であろう。
小中学校と高校とでは、前者は普通教育であるのに対し、
後者は普通教育と専門教育というように、解の出し方は異なってくるが、
高校学区制の広域化や廃止の流れの中で重要ポイントになるのは、
「教育格差」への対応であろう。
このコラムでは、今回以降何回か、標題のテーマについて考察することにしたい。

【プロフィール】
教育政策論、教育社会学専攻。
大学教員として46年間過ごし、現在は東京学芸大名誉教授、
国立教育政策研究所名誉所員、埼玉学園大学大学院客員教授。
少子化・人口減少、大震災や戦乱などの社会変動のもとにおける
学校システムのあり方などを主テーマにしている。
近刊論文は、「東日本大震災における宮古市の子どもの生活
・学習環境意識の変化とレジリエンス―縦断調査を通して」
(『災害文化研究』第6号、2022年5月)。
単著は、『人口減少社会の公立小中学校の設計
―東日本大震災からの教育復興の技術』(協同出版)など。

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